新型コロナの重症化はサイトカインストームでないかもしれない?
Maybe the aggravation of the new corona is not a cytokine storm?
新型コロナが重症化時はサイトカインストームが起きているというのが、現在は定説になっていますが・・・
2020年の10月16日に、Lancetにサイトカインストームが起きていないかもしれないという興味深い発表がされました。しかもこの論文、25の論文のメタアナリシスの論文なのでエビデンスはあることになります。
題名は、「 Cytokine elevation in severe and critical COVID-19: a rapid systematic review, meta-analysis, and comparison with other inflammatory syndromes 」で日本語にすると「重症と致命的なCOVID-19の患者さんのサイトカインの上昇について、迅速な系統的レビューをメタアナリシスで他の炎症性症候群との比較」したものです。
TNF-αやIL-6の増加を考えると歯周病の炎症のメカニズムと関係するので、歯科関係者にも非常に興味の唆られる論文です。
概要
非常にざっくりですが、
COVID-19の患者さんの炎症時のいくつかのサイトカインの変化を、「サイトカイン放出症候群」と「敗血症」さらにCOVID-19とは無関係な「急性呼吸窮迫症候群」の患者さんの血清IL-6の濃度やその他のバイオマーカーについて比較しました。
その結果、COVID-19の患者さんのIL-6は少なく、サイトカイン放出症候群の患者さんは100倍、敗血症の患者さんは27倍、急性呼吸窮迫症候群の患者さんは12倍という結果になりました。
さらにその他のバイオマーカーについて調べてみると、COVID-19誘発臓器機能障害におけるサイトカインストームの役割に疑問を投げかけることになってしまったというものです。
以下、論文中のIL-6や追加のバイオマーカーや炎症過程の機構的比較の図を改変しましたので参考にしてください。
IL-6の血中濃度
図1は、論文の図をわかりやすい様に改変したものですが、新型コロナの患者さんのIL-6の血中濃度は明らかに低いことがわかります。(サイトカイン放出症候群は100倍、敗血症は27倍、急性呼吸窮迫症候群は12倍)
追加のサイトカインとバイオマーカー
図2は、追加のサイトカインとバイオマーカーを示します。
CRP濃度は、COVID-19の患者さんと敗血症の患者さんで同等であり、サイトカイン放出症候群の患者さんでより高くなりました。D-ダイマー濃度は、COVID-19の患者が敗血症の患者さんよりも実質的に高いD-ダイマー上昇を示しました。フェリチンと乳酸デヒドロゲナーゼの平均濃度は、サイトカイン放出症候群の患者さんの方がCOVID-19の患者さんよりも著しく高かったが、それでもCOVID-19の患者さんでは非常に高かった。対照的に、プロカルシトニン濃度はCOVID-19の患者さんでは上昇しませんでしたが、敗血症では上昇しました。
COVID-19とARDS、敗血症、およびCART細胞誘発性CRSの患者における炎症過程の機構的比較
サイトカイン濃度とは対照的に、COVID-19の患者さんでは、いくつかの急性期反応物および他のバイオマーカーの同様またはそれ以上の上昇が見られました。D-ダイマー濃度は、敗血症の患者さんよりも重大なCOVID-19の患者さんで5倍高く、これは、D-ダイマーとCOVID-19の重症度との関連が一貫して区別できることを示唆しています。
まとめ
COVID-19におけるIL-6の血中濃度は低い
COVID-19の重症化はサイトカインストームの病態でない可能性がある
サイトカインストームとは、感染症や薬剤投与により血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-α等)の異常上昇が起こり、これが全身に及ぶ結果、「好中球の活性化」「血液凝固機構の活性化」「血液拡張」が起こり、ショック、DIC,多臓器不全が起こることをいうので、IL-6やTNG-αの上昇は認められないことよりサイトカインストームの病態とは異なることが示唆されます。
余談ですが、日本でも、5月に特例で承認した抗ウイルス薬「レムデシビル」に続き、国内で2例目の正式なコロナ治療薬となった歯科でもお馴染みのデキサメタゾンですが、これについても不可逆的な肺損傷を引き起こす遅発性線維症を抑制すると言及されていました。
さらに、INF-γの産生が無いことが非常に気になるところでした。
もう少しすると、さらに詳細なことが判明し治療法が確立されると思います。
歯周病の病態のメカニズムとも関連するので非常に面白い論文でした。
参考文献
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