歯周病と喫煙

Periodontal disease and cigarette

unsplash-logoMathew MacQuarrie

タバコを吸うと歯周病になりやすいことは、最近では認知されてきている情報となりつつあります。ある統計データによると、歯周病にかかる危険は1日10本以上喫煙すると5.4倍に、10年以上吸っていると4.3倍に上昇するそうです。当院でも禁煙指導は患者さんに積極的に行ってきました。ところが最近、加熱式タバコや電子タバコ等が発売され、コンビニエンスストアに行くと売らんかなとばかり、レジのところに置いてあります。喫煙している患者さんがリコールで来院して、歯肉の出血や炎症が以前より顕著に悪くなっているので「最近何か体の調子が悪いですか?」とお聞きすると、タールも少ないので健康を考え加熱式タバコに替えたというのです。加熱式タバコ等との因果関係を知りたくてタバコについてちょっと調べてみました。

タバコの種類について

表1

患者さんが吸っているタバコは表1の様に、概ね3種類ぐらいです。(他に無煙タバコ、水タバコ等あります。)電子タバコをタバコに分類するかは意見が別れるところですが、日本では、タバコ葉が入っているものがタバコと法律で決められています。したがってタバコではないと思いますがここではタバコとして扱います。

喫煙者の口腔状態

以前も当ブログで喫煙者の口腔内について投稿したことがありますが、ザッとおさらいします。

図1

喫煙者の臨床的所見は図1の様になります。

喫煙は免疫機能に対して抑制的に作用します。これは、ニコチンがからだを守ってくれる好中球の貪食能や化学走化性を低下させ…(詳しくは3月の診療予定のお知らせを参照してください)今回は、「喫煙者の歯肉出血が少ない」ことにフォーカスします。

喫煙者の歯肉からの出血が少ないのは?

結論から先に言うと、喫煙時のタールが原因です。

実は、タールは身体に有害物質があるその一方で、「炎症を抑える作用(抗炎症作用)」や「抗ウイルス作用」を持つ成分もあります。これらの作用によって、歯周病によって生じうる歯茎の痛みや腫れや出血といった症状が、知らず知らずのうちにタールの作用によって抑えられてしまいます。これが診療でよく遭遇する、喫煙者の人は、ポケットから排膿や出血があるが患者さん自身は自覚症状があまりないという理由です。自覚症状がないためにタバコが原因とは思わず、タバコを吸い続け、重度の歯周病になって初めて来院されることになるのです。

加熱式タバコを吸うと歯肉の症状が出るのはなぜ? 

理由は、すでにお分かりだと思います。表1をご覧ください。紙巻きタバコに比べ加熱式タバコはタールがほとんど無くなっています。実際タールをほとんどカットして、体にいいと宣伝して販売しています。紙巻きタバコを吸っていた時はタールでマスキングされ症状が出なかったのが加熱式タバコに替えたことによってタールが少なくなり症状がマスキングされず現れてしまったのです。

当院の患者さんでエプーリス(エプーリスの語源は「歯肉の上にあるもの」という意味で、歯肉部に生じた良性の限局性腫瘤を総称し、炎症性あるいは反応性の歯肉増殖)が発現してしまった患者さんもいました。

電子タバコなら大丈夫なのか?

ニコチンもタールもない電子タバコなら大丈夫だろうと…

結論から先に言うと推奨できないと言うことです。日本呼吸器学会の見解が下記の図2のようになります。

図2

詳細はこちら

新型タバコは煙が出ない・煙が見えにくい

新型タバコは、「煙が出ないあるいは煙が見えにくい」とされています。ところが、特殊なレーザー光を照射すると大量のエアロゾルを呼出していることが判明します。燃焼式タバコでは明らかに煙が見えましたが新型タバコは煙が見えないのでさらに厄介です。受動喫煙のことを考えると非常に問題があります。

このことに関してWHOは、「電子タバコのエアロゾルにさらされると健康に悪影響がもたらされる可能性がある」と指摘しています。どちらにしても、「見える」「見えない」に関わらず煙は吸いたくありませんねぇ。詳細はこちら

タバコは身体にどのような影響を及ぼすか?

タバコが身体にどのような影響を及ぼし、禁煙すると身体にどれほど良いか、さらに禁煙の方法などについて理解するのにお勧めのビデオです。ご覧ください。

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まとめ

新型タバコは、加熱式タバコと電子タバコがある

加熱式タバコを吸うと歯肉の症状(出血、腫れ、痛み)がでる

タールは炎症症状等をマスキングする(タールは発がん物質である)

新型タバコも健康には悪影響がある可能性がある

燃焼式タバコ(従来型)に関しては十分なデータはあり明らかに健康へのリスクがあることは認知されています。しかしながら、加熱式タバコ・電子式タバコ(新型)に関しては「煙が出ないあるいは煙が見えにくいので禁煙エリアでも吸引可能」「受動喫煙の危険がない」「従来の燃焼式タバコより健康リスクが少ない」と誤認され急速に広がりを見せているように思われます。新型タバコの健康に関する十分なデータもまだありませんが、当院といたしましては、現在のところ、従来型タバコと同様な指導をしていくスタンスです。


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