歯周病予防は全身疾患予防?②

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歯周病とアルツハイマー型認知症

本日のお話は、歯周病と認知症についてです。

歯周病と認知症は関係あるの?と思われるかもしれませんが、実は関係しているのではないかと2000年頃からいわれ始めました。最近ではいろいろ研究がなされ、このことについて以前よりだいぶ関係性がわかってきました。慢性歯周炎の原因細菌である口臭の原因菌のポルフィロモナス・ジンジバリス菌(以下、Pg菌と略します)がアルツハイマー病患者の脳内で確認されたという研究が2019年1月13日に冒頭のスライドでお見せしたオープンアクセスジャーナルの「Science Advances」に発表されました。余談ですが4月19日の最新号に小惑星探査機「はやぶさ2号」が「竜宮」に到達し2020年の12月に戻ってくることが掲載されていました。興味のある方は登録して購読してください。登録はこちら

話を戻します。この研究の要旨をザックリ説明すると

Pg菌が産生する毒性プロテアーゼ「ジンジパイン」が脳内で確認され、そのレベルは、アルツハイマー病と関連のある「タウ・タンパク質」や「ユビキチン」との相関が認められてたそうです。さらに、マウスの口内にPg菌を感染させたところ、6週間後には脳内でPg菌が確認され、脳内の「アミロイドβ」も著しく増加したそうです。「ジンジパイン」を阻害する分子標的療法によって、Pg菌の脳内での感染を抑制し、「アミロイドβ」の産生を妨げられることができ、歯周炎の原因菌を阻害することで、「アミロイドβ」の産生を妨げ、神経炎症を抑制し、海馬の神経細胞を守るといった新しい治療法への道がひらかれました。という要旨です。最近ではアミロイド仮説に疑問が持たれ始めていますが、Pg菌が「アミロイドβ」「タウ・タンパク質」に関与していることは間違いなさそうです。

参考文献はこちら

では、まず認知症についてです。

認知症とは?

誰でも年齢を重ねると、もの覚えが悪くなったり、人の名前が思い出せなくなったりします。こうした「もの忘れ」は脳の老化によるものです。しかし、認知症は「老化によるもの忘れ」とは違います。認知症は、何かの病気によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態をいいます。そして認知症が進行すると、物忘れが酷くなり、ヒントがあっても思いだせず、だんだんと理解する力や判断する力がなくなって、忘れたことの自覚がなくなり、社会生活や日常生活に支障が出てくるようになります。

三大認知症とは?

認知症には三大認知症として以下の様なものがあります。

三大認知症の特徴

アルツハイマー型認知症血管性認知症レビー小体型認知症
脳の変化老人斑や神経原線維変化、海馬を中心に脳の広範囲に出現。脳の神経細胞が死滅していく脳梗塞、脳出血が原因で、脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死しまうレビー小体という特殊なものができることで神経細胞が死滅してしまう
画像でわかる脳の変化海馬を中心に脳の萎縮がみられる脳の壊死した部分がみられるはっきりした脳の萎縮はみられないことが多い
男女比女性に多い男性に多い男性にやや多い
初期症状物忘れ物忘れ幻視、妄想、うつ状態、パーキンソン症状
特徴的な症状認知機能障害
(物忘れ等)
もの盗られ妄想
徘徊
取り繕い
認知機能障害
(まだら認知)
手足のしびれ・麻痺
感情のコントロールがうまくいかない
認知機能障害
(注意力・視覚等)
認知の変動
幻視・妄想
うつ状態
パーキンソン症状
経過記憶障害から始まり広範な症状に徐々に進行する調子の良い敵と悪い時を繰り返しながら進行していく原因となる疾患によって異なるが比較的急に発症し、段階的に進行していくことが多い

認知症の治療

現在のところ認知症を完全に治す方法はありませんが、適切なケアを行うことによって進行を遅くしたり、症状を軽くしたりできる場合もあります。現在では、「薬物療法」「非薬物療法」が行われています。

薬物療法

薬物治療に主に使われているのは、抗認知症薬です。認知症全体の6割以上を占めるアルツハイマー型認知症は、抗認知症薬で症状の進行を遅らせることが可能な様です。日本では1999年に初めての抗認知症薬として塩酸ドネペジルが発売され、この一剤のみという時代が続きましたが、2011年にガランタミンリバスチグミンメマンチンの3剤が新たに発売され、現在は4剤が使えるようになっています。塩酸ドネぺジルはレビー小体型認知症にも効果があると認められ、2014年からは健康保険適用が拡大されました。
また、興奮や徘徊などのBPSDが激しいときには、抗精神病薬や抗不安薬、抗うつ薬、などを使うこともあるそうです。

非薬物療法

患者さんが興味を持っていることや現在できることを行ってもらいます。コミュニケーションを積極的に行い脳を活性化することを行います。回想療法、認知リハビリテーション、音楽療法、園芸療法、リアリティ・オリエンテーションなどがあります。

脳を活性化する療法の一つに口腔領域の機能を改善することも行われています。(噛むことと認知症を参照してください)

次は、歯周病菌のPg菌についてです。

Pg菌について

正式な名前はPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)といいます。歯科関係者は略してPg菌といいます。グラム陰性 偏性嫌気性菌の桿菌で、この菌はあまり強くないので普段はひっそり生きています。数が少ないうちは全く無害ですが、Pg菌が生息するのにいい条件が整い、数が増えてくると悪さを始めます。この菌は、糖ではなく、アミノ酸やタンパク質を餌にします。また血液が大好きです。血液等のタンパク質を餌にして増殖していきます。その際に生じる有機化合物(メチルメルカプタン)などが歯周病に特有な口臭のひとつの原因となります。

歯肉を破壊し歯周ポケットを深くしていきます。ポケットが深くなり4mm以上になると酸素もなくなりPg菌にとっては生息するのに絶好の場所になってしまいます。Pg菌はいろいろな毒素を出し始めます。体の方も骨を溶かして感染しない様にします。この様なメカニズムで歯周病が進行します。

このPg菌に一度感染すると、メンブレントラフィックによって歯肉上皮細胞に侵入して細胞内で生息するため、口腔内から除去することは不可能になってしまいます。

また、Pg菌はアテローム性動脈硬化の部位にも現れてきます。アテローム性動脈硬化になるとその部位が脳なら結果的に血管性認知症になることは容易に想像できます。Pg菌は体のいろいろな部分で悪さをする菌です。

Pg菌排除法

Pg菌は一度感染したら排除することはできないと言いましたが、実は、完全に排除する方法は一つあります。それは、Pg菌が生息する場所がなくなればいい訳ですから、歯を全部抜いて総義歯にしてしまえばいい訳です。しかしこの方法は現実的には不可能です。

実際はどの様にしているかというと、

歯周ポケットの深さを計測します。4mm以上が棲み家です。さらに出血する場所をチェックします。これで棲み家と餌の場所がわかりますので、あとは兵糧攻めと棲み家を無くしてしまえばいいだけです。患者さんにあった適切なブラッシングとポケット内を綺麗にすること(スケーリング・SRP・FOP)を行います。

これでしばらくはおとなしくしてくれていますが、メンブレントラフィックによって歯肉上皮細胞に侵入しているのでまた元気になるチャンスを待っています。そこで定期的検診による歯周ポケット内のクリーニング等が必要不可欠になるわけです。3ヶ月ごとに来院してくださいと言われるのはこのためです。

まとめ

A good life with periodontal disease prevention

           

       

世界で最も蔓延している病気は歯周病である

認知症患者さんの脳には歯周病菌が認められることがある

Pg菌に感染するとアミロイドβが増加する

認知症を直す治療法はまだない

認知症予防には歯周病予防が有効

歯周病予防には定期検診が必要

疫学的な調査でも、歯周病罹患者がアルツハイマー病を発症するリスクが高いことがわかっています。また、アミロイドβの蓄積は、50歳前後から始まるといわれています。それから20年以上かけて老人斑ができ、脳神経が変性して、70代から80代で認知症を発症するのが一般的な流れです。同様に、歯周病の症状も20年ぐらいかけて無症状のまま経過し、40~50代で発現してきます。20代から歯周病の予防をしっかりすることで、認知症の予防や認知症の発症を遅らせたり、増悪することを防ぐことができ楽しい人生を送れることになるのではないでしょうか?


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