Microbial shift

Microbial shiftとは?

 Microbial とは「微生物の」という形容詞です。Shiftとは名詞なら「変化」動詞ならChange(変わる)と同様に考えても良いかも知れません。

他に使われる例としては、

microbial investigation(微生物研究)

microbial barrier(微生物バリアー)

microbial warfare(微生物戦争)

など様々なワードがあります。

歯科では、バイオフィルムを取り巻く環境因子(栄養、温度、pH、嫌気度)の変化によって、細菌が活気づき病原性を高める現象になることを「Microbial shift」と呼んでいます。

歯科の疾患は、歯周病菌とむし歯菌による感染症と考えると、他の感染症と違い、菌が口腔内に常駐しているわけで居なくなることがありません。

そこで、治療のゴールは、Microbial shiftを起こさない様にすることになります。

このことは、歯科関係者にとっては共通認識ですが、患者さんには残念ながらあまり認知されていません。

バイオフィルムが悪玉化?

バイオフィルムの住人である細菌は、お互いに栄養共生を行なっているものが多数います。

ざっくり説明すると・・・

他菌種の産生する代謝物を栄養素としてこれを餌として食べることによってさらに元気になっていきます。これがいわゆる栄養共生によるバイオフィルムの増殖です。

このようにしてバイオフィルムは増殖して悪玉化していきます。悪玉化して行くと当然のごとく病原性は高くなっていきます。

出血が病原性をさらに高める!

バイオフィルムの病原性が高くなると、歯肉から出血が起こり始めます。バイオフィルムから出される炎症を起こす物質により歯周ポケットの内面に潰瘍が形成されます。この状態になると出血が見られるようになります。

歯周病菌(特にP.gingivalis)の餌は、血液なのですが、ヒトの血液中のヘモグロビンのヘミン鉄を餌としています。

この状態になると、菌が爆発的に増加し始めます。

逆にいうと、ヘミン鉄がないと歯周病菌は元気になることができません。

歯医者さんに行くと「出血してるので問題」です、と衛生士さんに言われると思います。

それは、歯周病菌が元気になって歯周病が進行する状態になり始めているので、大変ですよということです。

またこの大変ですよは、歯周病菌が全身疾患(歯周病予防は全身疾患予防?)とも関係しているから大変ですよという意味でもあります。

当院の歯周病治療に関するスタンス

歯周病治療のゴールは、ポケットからの出血をなくすことで、悪玉化しない状態にすることです。歯周病菌に対する兵糧攻めをしています。実はどこの医院もこれを治療のゴールとしています。

理由は・・・

歯周病菌を口腔内から排除することは不可能だからです。(メンブレントラフィック1)2))そこで、適切な口腔内の管理を行うことで、バイオフィルムの悪玉化というMicrobial shiftが起こらないことをゴールとしています。

Prevention is better than cure

予防は治療に勝る

エラスムス

参考文献

1)天野敦雄. “細菌感染とオートファジー.” モダンメディア 57 (2011): 159-165.

2)前島郁子, and 吉森保. “オートファジーによる細胞内侵入性細菌の認識機構.” 化学と生物 52.10 (2014): 680-684.

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