歯周病予防は全身疾患予防?①
Prevention of periodontal disease prevents systemic diseases
日本人の80%以上の方が歯周病に罹患しているといわれています。
歯周病の怖いところは、初期の段階ではほとんど自覚症状がないことです。
自覚症状が出た時は、既に歯周病がかなり進行していることが多く、長期の治療が必要になり、最悪の場合は、抜歯しなければならないこともあります。
また、最近では、以下に列挙するように歯周病と全身との関係も示唆されています。
- 誤嚥性肺炎
- 心内膜症
- 動脈硬化(心筋梗塞・脳梗塞)
- 早産・低体重児出産
- 糖尿病
- 認知症
歯周組織だけでなく全身との関係もあるので、非常に恐ろしいです。
そこで、本日は、誤嚥性肺炎についてのお話です。
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話の内容
誤嚥性肺炎とは?
誤嚥性肺炎は、口腔内あるいは咽頭に潜伏している細菌の不顕性誤嚥が原因で発症します。誤嚥は、嚥下反射と咳反射の低下などによっておき、脳血管障害の見られる高齢者に多く見られます。肺炎の発症メカニズムには「口やノドの中の細菌」「誤嚥」そして「体の抵抗力」が関係します。一番簡単にコントロールできそうなところは、「口やノドの中の細菌」なのでここをなんとかしてしまえば肺炎はある程度コントロールできてしまうことが想像できます。
ところで肺炎の病気としての死亡率はどのくらいなのでしょうか?まずこの辺りから見てみます。
日本人の死亡率は?
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | |
総数 | 悪性新生物 | 心疾患 | 脳血管疾患 | 肺炎 |
50代 | 悪性新生物 | 心疾患 | 脳血管疾患 | 自殺 |
60代 | 悪性新生物 | 心疾患 | 脳血管疾患 | 肺炎 |
70代 | 悪性新生物 | 心疾患 | 脳血管疾患 | 肺炎 |
80代 | 悪性新生物 | 心疾患 | 肺炎 | 脳血管疾患 |
90代 | 心疾患 | 肺炎 | 悪性新生物 | 脳血管疾患 |
厚生労働省によると、肺炎にかかって亡くなる人の割合は主な死亡原因で亡くなる方全体の9.8%を占め、悪性新生物(がん)の30.1%、心疾患の15.8%、脳血管疾患10.7%の次に多くなっています。肺炎は、日本人の死亡原因の第4位で死亡率の高い病気なのです。
詳しくはこちらをご覧ください。
死亡率4位の肺炎ですが、厚生労働省の表を見るとあることに気がつきます。それは死亡率4位の肺炎は65歳から死亡率の上位に顔を現してきています。高齢になると肺炎は死をイメージさせる病気なのです。テレビで肺炎予防のコマーシャルご覧になったことありませんか?肺炎予防のワクチンのコマーシャル
誤嚥性肺炎の原因の一つが歯周病菌
高齢者の口腔内はデンタルプラークやデンチャープラークだけでなく歯周ポケット内、舌背、頬、咽頭、粘膜などにさまざまな微生物がバイオフィルム※を形成しています。これらの形成細菌が唾液と一緒に誤嚥され下気道に流入することによって誤嚥性肺炎が発症します。
実際に高齢者の肺炎から分離される細菌は、嫌気性歯周病細菌が最も多いようです。このことから、歯周病の菌が誤嚥性肺炎の原因の一つだと言うことが考えられると思います。ならばこれを除去すれば言い訳です。
※バイオフィルムとは:微生物により形成される構造体。歯は固体で液体の唾液に囲まれており、口腔内は温度的にも栄養的にもバイオフィルムの繁殖に最適である。さらに歯は皮膚や粘膜のように剥落しないため、バイオフィルムが定着、成長しやすい。虫歯と歯周病はバイオフィルム感染症
どうすれば原因を除去できるの?
原因を除去する方法は、何といっても口腔内ケアによるバイオフィルムの除去につきます。そこで、ある研究を紹介します。
全国11ヶ所の老人ホームで行われたこの研究では、歯科医師や歯科衛生士によって口腔ケアを積極的に行ったグループと今までどおりの口腔ケアにゆだねたグループの間で、発熱の発生率、肺炎の発症率、肺炎による死亡者数を比較しました。その結果、積極的に歯科関係者によって口腔ケアを行ったグループでは今まで通りのグループに比較して、25ヶ月間で肺炎の発生率が40%、肺炎による死亡者数は50%減少することができました。つまり、口腔内ケアによるバイオフィルムの除去を行えばかなり肺炎の発症および肺炎による死亡が減らせるということです。
あとは適切な口腔ケアを行えばいいだけです。
口腔ケアのポイント
口腔ケアに必要なポイントは二つです。
バイオフィルムを破壊すること
破壊したバイオフィルムをちゃんと除去すること
口腔ケアの部位
口腔内ケアをする部位は、口腔内清掃、歯周ポケットのクリーニング、舌背、頬粘膜のバイオフィルムを除去することになります。歯周ポケットは、歯科衛生士によるプロフェショナルケアが必要不可欠です。また、口腔内清掃、舌背、頬粘膜等につきましては、プロフェッショナルケアあるいはセルフケアで行います。セルフケアについては、十分でない場合がありますので、歯科衛生士さんに一度チェックしてもらうことをお勧めします。磨いていることより磨けていることが大事です。さらにバイオフィルムの除去には細心の注意を払ってください。
実際、高齢者や脳血管疾患の方はご自身では十分なセルフケアができないのが実状です。看護師あるいは介護士の方の十分口腔ケアの方法については熟知していますので心配ありませんが、ご家族の方が行う場合は、看護師さん、介護士さん、衛生士にセルフケアの仕方についてアドバイスを必ず受けてください。バイオフィルムをちゃんと除去しないで口腔内に残しておくと、これを誤嚥し、口腔ケアをすることにより誤嚥性肺炎を誘発してしまうことになってしまいます。これでは本末転倒になってしまいます。
口腔ケアの方法、セルフケアの方法についてはまた投稿します。
まとめ
肺炎の死亡率は60歳から急激に増加する
誤嚥性肺炎の患者さんの肺からは歯周病の菌が多く見つかる
誤嚥性肺炎予防には口腔内ケアが重要である
プロフェッショナルケア(歯周ポケットのクリーニング)は衛生士さんへ
セルフケアのチェックは看護師さん、介護士さん、衛生士さんへ
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