ポビドンヨードについて
About Popidon iodine
大阪府知事のお陰で有名になった、ポビドンヨード1)ですが、歯科では治療の前にうがいをしたり10)11)、歯周ポケットの中をポビドンヨード等を用いて洗浄したりして治療に使用している医院もあります。2)3)4)5)6)
医療関係では、スタンダードに使用されてきた薬剤ですが、いろいろ問題もあり、最近では、ヨード系のものはあまり使用されなくなりました。
ところで、患者さんの気になるところとしては、ポビドンヨードを用いて日常的にうがいすることは効果があるのかというところですが・・・
ポビドンヨードによるうがいの予防効果は微妙
ということは医療関係では共通の認識になっています。7)(このことは、当ブログの「マスク」「手洗い」「うがい」についてでも触れていますのでそちらを参考にしてください。)
消毒効果のあるうがい水で予防的にうがいをすることは微妙、予防的にする場合は「水でうがい」をするようにしてください
ということが現在では医療関係者の共通認識というか学校でもうがい水によるうがいでなくただの水道水でのうがいをするようになっています。(最近は、休み時間における歯磨きやうがいはコロナの感染のことを考慮して文科省や学校医の指導のもと対策をとっています。)
そこで本日のブログは、最近ではあまり行われなくなったうがいに用いるポビドンヨードについてです。
ポビドンヨードとは?
昔は、子供の時にケガをした際に保健室でお世話になったヨウ素のアルコール溶液であるヨードチンキですが、これは人体への刺激が強かったためなのか傷口に塗ったからなのか?
すごく痛かったように記憶しています。
余談ですが、現在では、ケガをした時は、ヨードチンキ等の消毒剤を使用せず、水洗いをして乾燥しないように傷口をカバーします。カバーするものは、サランラップでも良いと言われています。
理由は、消毒薬は、傷を治そうとする正常な皮膚の細胞にも害を及ぼしてしまい、さらに皮膚の常在菌も殺菌してしまいます。また、皮膚に少し細菌がいても傷は治っていくことなどが分かってきて、消毒することで傷の治りが遅くなることが分かってきたため、消毒薬はほとんど使われなくなってしまいました。
そんな訳で、最近は、ヨードチンキやオキシドールは見ることがなくなりました。
基本的にどの消毒薬も組織には為害性があります。このことを認知した頃から、口腔内も同様と考えるようになり、ほとんど消毒薬を使用しなくなりました。代わりに生理食塩水で洗浄しています。
話をポビドンヨードに戻します。
ポビドンヨードは、ヨードチンキの為害性を少なくして改良したものです。
ヨードチンキは、塗ると、そのヨードがばっと放出されて、組織が非常にダメージを受けてしまいます。それで傷の治りが悪くなるので使用が中止され、それを改良するために、ポリビニルピロリドンにヨウ素を加えることでこの問題を解消しました。
しかしながら、2〜3分待たないと効果は期待できません。当然ヨードなので効果はヨードチンキと同様です。
冒頭で述べたように、うがい等で使用した場合は、消毒効果があるために、常在菌や口腔粘膜を傷つけてしまうことでポビドンヨードを使用すると逆効果になってしまうので現在では予防には使用しないことが定説になっていました。
ところが、大阪府知事の突然のコロナにポビドンヨードとの発表がありました。
大阪府知事の発表では?
大阪府は、大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターの観察研究(大阪府・市が研究に協力)を8月4日に発表しました。8)
TV報道でご覧になった方もいると思いますが、研究では、ホテル宿泊療養をする感染者41人を対象に、1日4回(起床時・昼食前・夕食前・就寝前)、「ポビドンヨードでうがいをする群」と、「水でのうがいする群」にわけ、新型コロナウイルス陽性頻度を検討しました。この結果、ポビドンヨードでうがいした群では、ウイルス陽性頻度が低下するという結果になり、今後臨床研究を拡大する考えを示していました。9)
この「嘘のような本当の話」の発表のあと、イソジンが店頭から消えてしまったのは、記憶に新しいところです。
さらに、残念ながら、公表されているものは、文献とは言い難く、エビデンスと言う代物ではありませんでした。どうしてこれを公表したのか、首をかしげたくなりました。
改めて考えてみてください、府知事は弁護士ですがエビデンスに関してはあまり明るくないようですし、さらに不思議なことに実際に指揮していた人は、大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターのセンター長の松山晃文医師です。ちなみに松山氏は、藤田医科大学 医学部 医学科 再生医療学講座 講座教授ですからエビデンスの世界で生きている人です。さらに、何と発表したデータの解析は、横浜市立大学医学部 医療統計学 山中竹春教授によるものでした。
本来このような形で発表するわけがありません。
どう考えても政治的に利用されたとしか考えられず、準備不足で勇み足の感が否めません。教授たちにしてみれば吉村府知事(大阪維新の会)のとばっちりを受けたようなものという考え方もできます。
ところで、口腔内に消毒薬を用いれば、ウイルス量が減るのは誰が考えても当たり前の話で、むし歯や歯周病の予防をするのに歯磨きをするのも原因菌を減らすという行為では同様なことと考えられます。ちなみにただの水でうがいをしてもウイルス量は減少し、インフルエンザの予防になることは、すでに、国民の共通認識です。7)
ましてや消毒効果のあるイソジンを使用すれば当然の結果で、逆に検査前に消毒薬でうがいをすればPCR検査が陰性になる可能性もあり、元々信頼性にかける検査自体がさらに信頼度が低下してしまうことになります。
さらに、ヨードの取りすぎによる甲状腺機能低下症(ウォルフ-チャイコフ効果)についても言及されていません。
ハロゲン元素(次亜塩素酸水の塩素、ポビドンヨードのヨウ素)が関与するものは、摩訶不思議なことが起こるという感じです。
ちなみに、「次亜塩素酸水によるうがい」も同様に予防効果は微妙と考えられます。
現在では、消毒剤を人体になるべく用いないことがスタンダードになってきています。
まとめ
消毒効果があるうがい水を予防目的で行うことは微妙
原因病原菌あるいは原因ウイルスを選択的に殺菌し、口腔内常在菌や正常細胞には関与しない消毒薬があれば積極的に使用します。しかしながら、残念なことにそのような消毒薬はありません。
消毒薬は人体には有害と考えた方が無難です。
消毒効果があるものを使用すると口の中の常在菌も消毒されてしまうので口の中の菌のバランスが崩れてしまう菌交代症の可能性も考えられます。
日常的に消毒効果あるうがい水を使用することはお勧めできません。
現在は、消毒効果があるものを人体に積極的に使用することは正常細胞等に障害があり治癒が遅れることがわかったので行われなくなりました。
参考文献
1)八代純子, and 篠原圭美. “消毒薬としてのポビドンヨード (ヘッドライン: ヨウ素の化学).” 化学と教育 63.5 (2015): 224-227.
2)小川智久, et al. “ポピドンヨード含有含嗽剤 (イソジンガーグル®) の歯周縁下細菌叢および臨床症状に及ぼす影響.” 日本歯周病学会会誌 38.3 (1996): 354-358.
3)鴨井久一, et al. “口腔内病原性細菌に対する in vitro でのポビドンヨード溶液の殺菌効果.” 日本歯周病学会会誌 32.2 (1990): 660-666.
4)宮田裕之, et al. “ポビドンヨードによる歯周ポケット内洗浄効果.”
5)岩崎直弥, et al. “ポビドンヨードの培養哺乳類細胞に対する毒性について.” 日本歯周病学会会誌 31.3 (1989): 836-842.
6)奥田克爾, 太 田功正, 加藤哲男, 石原和幸, 高添一 郎, 清 田 築, 中川種昭, 山田 了, 佐藤徹一郎: ネオ ヨジ ン (R) (ポビ ドンヨー ド剤) の歯 周ポケ ッ ト内細菌殺 菌 効 果. 歯 界 展 望, 70: 1409-1415, 1987.
8)ホテル宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究について
9)大阪はびきの医療センターにおける新型コロナウイルスへの取組み
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