唾液によるPCR検査について
PCR test with saliva
PCRの唾液検査をしている会社名:SPECTRUM DNA社
現在は、ラトガース大学とその大学に所属する病院やクリニックのみで利用可能の様です。
また、現在は、海外からの注文には対応していない様です。
下記ビデオは、唾液採取の方法とそれに関するニュースです。
方法は至って簡単です。
現状では、試薬の追試あるいは新規に唾液を使用したPCR検査の方法を開発を行うことですが、唾液によるPCR検査は歯科医院でもすでに行われていますのでPCRの原理からしたら十分可能かと思われます。
以前、当ブログでも触れたことがありますが、インフルエンザの検査は、唾液を使用した方が1000倍ほど感度が良いという報告もあります。7)
SPECTRUM社の唾液を使用するエビデンスとして下記に示すYale大学の論文を使用しているのでこれに頼るしかありません。
使用機材等の記述がないので不明なことが多すぎて正直なところちょっと微妙な感はあります。
Yale大学の論文
査読前の論文で、アメリカYale大学からの報告です。スワブによる検査(現行のもの)と唾液を検体にしたものを比較しました。44名の感染者、合計121検体について解析しました。
陽性サンプル(唾液39検体、鼻咽頭43検体)で比較すると、唾液の方がウイルス量が約5倍としています。
29名では自己採取した唾液と、医療従事者が採取した鼻咽頭サンプルの同時比較が可能であった(38検体)が、やはり唾液検体の方がウイルス量が多かった様です。
また唾液が陽性で鼻咽頭サンプルが陰性であったのは8例、唾液が陰性で鼻咽頭サンプルが陽性であったの3例であった。以上の結果から、唾液はPCR検査の検体として信頼できるとしています。
感染者は数十倍いるのでは?
『COVID-19 Antibody Seroprevalence in Santa Clara County, California』
スタンフォード大学が位置するカリフォルニア州サンタクララ郡の3300名の住民に対して、アメリカで開発された抗体検査(ラテラルフロー法)を行ったところ、50名が陽性であり、過去に感染していたことが示唆されました。
群の人口動態で補正すると、48,000から81,000人の感染者がサンタクララ群にいると考えられそうです。これはPCR検査で報告されている感染者数の50-85倍に相当する。抗体検査の感度は約80%、特異度は99.5%であった。
日本では400倍?
神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区)は2日、新型コロナウイルスと関係のない症状で4月7日までの8日間に外来を受診した患者1000人の血液を調べたところ、過去に感染したことを示す抗体が33人から確認されたと発表した。性別や年代の偏りを修正すると、抗体を持つ人の割合は2.7%だった。神戸市の人口(約151万人)を基に計算すると、4月上旬の段階で市民ら約4万人が感染していたことになる。数字上では、当時市で判明していた感染者の400倍以上となる。
5月3日 毎日新聞
どの様な抗体検査を行ったかが不明なのでなんとも言えませんが、もし検査に交差反応がないとしたらこのデータはある程度信頼できることになります。この様に考えると日本人はすでに抗体を持っているのではないかという実しやか話も真実味をおびてきます。
このことは、すでに不顕性感染者を診療で診察していた可能性を示唆します。
抗体検査の必要性もクローズアップされてきた感はあります。
感染力は発症前が最強の様?
『Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19』
日本語にすると「COVID-19のウイルス排出および伝染性における時間的ダイナミクス」でしょうか?
ざっくりいうと、患者のウイルス排出の時間的パターンについての論文です。
COVID-19の患者のウイルス排出は症状の発症時またはその前にピークに達し、感染のかなりの割合がおそらく最初の症状の前に発生したと推定しました。
アウトブレイクを効果的に制御するには、症状の発症の2〜3日前に潜在的な感染を把握するための接触追跡のより包括的な基準を早急に検討する必要がありとしています。
オピニオン
感染力が発症前に最強ということは、ある意味打つ手はありません。しかしながら、このことはインフルエンザで私たちは経験しています。1)
ただし、重症の場合は、インフルエンザの比ではなさそうなので、ちょっと比較にはなりませんが・・・
これらのことより、将来的に考えられることは、
感染の有無の確認は不可能なため、医療機関を受診するには、受診する前のプレ受診としてコロナ陰性の証明書を発行してくれる機関を作ること、コロナ専門の病院を新設もしくは既存の病院をこれに当てるなどの方法が考えられます。
もしくは、歯科医院あるいは病院等で唾液検査によるPCR検査を行い診療をするということも考えられますが、機械等の導入が必要になり難しいかもしれません。
あるいは、PCR検査が唾液検査システムになったとして、歯科でも保険導入がされてできる様にするとか、勿論自宅でもできる様になると思いますが、医院でする方が保険が効くので安価にできる様にするとかいろいろな案が考えられると思います。
要するに、現行の医療システムをちょっと改良する必要があると思います。
これは、思案すれば問題なくクリアできると思います。
どちらにしても、現状では、術者の感染リスクをなくすことと件数を増やすためには唾液検査によるPCR検査はベストチョイスの様に思われます。また将来的にはこちらの方向にシフトしてくことも十分に考えられます。
ところがさらなる難問があります。
ボトルネックはPCRの検査をする検査技師さんとRNA抽出キット
医療崩壊が起きない様にしているのと同様に、PCR検査をする検査技師さんのことや検査に関する様々な問題も考える必要があります。
機械はお金を出して購入すれば簡単に手に入ります。検査を唾液にすれば検体は簡単に増やすことは可能です。しかし検査技師さんは機械ではありません。簡単に増やすことはできません。
さらなる問題もある様です。
実はRNA抽出キットがすべて輸入品であるからである。入手が難しくなってきている。業者の話では、現在入荷するのは注文の20%程度だという。それは、ご存じのように世界各国で膨大な数のPCR検査が行われていることと、無関係ではないと思われる。いわばマスクやPPE同様、国際的争奪戦が繰り広げられている可能性が高い。PPEやマスクで起きていることが検査キットでも起きていて、日本はその競争に完全に乗り遅れている。もしこのまま手に入らなければ、例えば先に挙げた施設でも1日100検体近く検査したら1カ月も持たない。
今後、そうした無制限の検査が行われた時、キットは間違いなく枯渇する。が、その状況でもしこの冬流行第2波が日本で起きた時、PCR検査はできないことになるがそれで良いか。いま、無駄撃ちを賢く抑え、次に備えて節約するという発想はないのか。そこを覚悟の上での現状でのPCR検査の議論であってほしい
PCR論争に寄せて─PCR検査を行っている立場から検査の飛躍的増大を求める声に(西村秀一(国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター・臨床検査科)
この辺りも問題になりそうです。
問題は山積です。
まとめ
新型コロナウイルスは、感染症対策における日本の脆弱な体勢をあらわにしてしまいました。
新型コロナウイルスは、風邪のウイルスやインフルエンザのウイルスと同様になくなることは多分ありません。
したがって、共存の道を選択するしかありません。このことは政府も長期戦というワードや海外の文献等で何気なく表現して国民に少しずつリークしています。
というよりほとんどの国民は薄々気づいています。
今後のシナリオを想定した様々なパターンの対策の立案が必要になりそうです。
追記
新型コロナに対する医療体制のガイドラインができるまでの間の現在の歯科治療におけるガイドラインを示すことも必要と思われます。このことは、日本歯科医師会が行うことになると思います。
これに関係することですが、ADAは診療を再開するためのガイドラインを出しました。また、CDCも歯科治療におけるガイドラインを発表しました。
非常事態宣言下でも診療を行っている先生には参考になると思います。興味がある方は参考にしてください。
ADAガイドライン
ADA(American Dental Association)の診療に戻るための暫定ガイドラインです。
ADAのガイドラインはこちら
CDCガイドライン
4月27日にCDCはガイドラインを改訂しました。
CDCのガイドラインはこちら
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参考文献
3)Azzi, Lorenzo, et al. “SALIVA IS A RELIABLE TOOL TO DETECT SARS-CoV-2.” Journal of Infection (2020).
6)Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19