エビデンスとは?
私たちの分野では、「エビデンスがある」と言えば、一般的には「科学的根拠」という意味であり、エビデンスに基づく医療(Evidence base medicine)を略すEBMと当たり前のように言っています。また、これを頼りに日々診療をしています。
言い方を変えると残念ながら頼りになるものはこれしかありません。
「エビデンス」は英語では「evidence」と綴ります。日本語にすると「証拠」「根拠」という意味になります。医療関係で用いる場合には、よく「根拠」という言葉が使われます。それは、科学的根拠、つまり実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」があることを指します。
「効果のある治療を受けたい」と思うことは、多くの人の共通の願いです。その願いを叶えるために、多くの研究がなされ、その結果に基づいて治療が行われています。
逆に言えば、エビデンスのない治療や処置は行わないのです。
エビデンスレベルの分類
エビデンスレベルの分類にはいろいろありますが、代表的なものを2つほど紹介します。「有効性による分類」か「研究デザインによる分類」です。
有効性による分類
言うまでもありませんが・・・
治療を受ける場合、AもしくはBがお勧めです。
研究デザインによる分類
(エビデンスレベルの分類はこちら)
専門家の意見もエビデンスを考えると、もっとも信用がない範疇になってしまいます。ただし、専門家の方は、十分なエビデンスの知識に基づいて話していますので、一応、信用できますが、鵜呑みにしてはいけません。必ず、話の根拠となるソース等を聞くなりしてご自身で確認をしてください。
メディアで放送している健康情報番組やインターネットやツイッターは、あまり信用できません。理由は簡単です。人の思考にはほとんどバイアスがかかっているからです。ほとんどの人が自分がインプットした知識を基に言語化して人に情報として発信しているからです。
ちなみに当サイトの情報も、主宰者の知り得る知識での情報ですので鵜呑みにせずご自身で確かめてくださいとサイトポリシーにも記述してあります。
医療関係は、患者さんの命に関係していますので、思い込みや偏りが無いようにエビデンスレベルという客観的に判断できる方法を用いています。そういう意味では、逆に、見分けは簡単です。
ガイドラインと名が付くものは、エビデンスが確かなので、通常は信用に値します。ちなみに、エビデンスがない場合は、手引書のネーミングになってしまいます。
あとは、図2に示すピラミッドの順番に信憑性あるいは信用性が評価されています。
さらに、引用数が多い文献が一応、信頼に値しますが・・・
そこで、ざっくりエビデンスレベルについて説明します。
エビデンスレベルについて
エビデンスを語るにはバイアスというワードの認識が必要です。バイアスとは偏りのことです。
エビデンスのレベルは、このバイアスをできるだけ排除したものほど、エビデンスレベルが高い、という評価になると考えてもらえばいいと思います。
メタアナリシスとは
メタアナリシス(meta-analysis)とは、あるテーマの論文をたくさん集めて、徹底的にバイアスを排除して、客観的に評価した論文で、成功率や発生率のデータの統計解析をしたものです。
ランダム化比較試験とは
ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)とは、評価のバイアスを避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法です。
この方法は、病院で処方される薬を使用できるかできないか決める介入研究の治験で行われる手法です。
例えば、ある薬を投薬した群と偽薬を投薬した群を比較します。ランダム化というのは、被験者も術者さらに評価者も、どの薬を使ったかわからない状態と考えていただければいいと思います。
このようにすることで、バイアスがかからないので評価できると言われています。もちろん完璧ではありません。
歯科では、このような臨床研究はほとんどありません。理由は、倫理的に問題が生じてしまうということで行われていません。
コホート研究
コーホート(cohort)とは、ラテン語の「cohors」で300人~600人の戦闘集団から由来した言葉とされています。疫学用語では「一定期間にわたって追跡される人々」という意味で用いられています。
医療関係では、「特定の要因に曝露した集団」と「曝露していない集団」を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べます。
コホート研究は
「前向き(prospective)コホート研究」
「後ろ向き(retrospective)コホート研究」
の2つに分類されます。
例えば、インプラントを埋入した患者さんを喫煙する群と喫煙をしない群に分けて今日から10年追跡調査をするのが「前向き研究」で、今日から遡って10年間について調査するのが「後向き研究」です。
言うまでもありませんが、後向き調査は、漏れとかがあるので、エビデンスとしては、劣ります。
ただしこの研究は、追跡できなくなる対象者が出てくることや、調査期間が長く費用や労力が大きいなどの欠点があります。
臨床研究について
臨床研究とは、人を対象として行われる医学研究のことです。病気の予防・診断・治療方法の改善や病気の原因の解明、患者さんの生活の質の向上を目的として行われます。
そこでは、長時間かけて発症する病気や、稀にしか見られない病気も対象になります。すでに行われている治療の効果やその予後を観察していくこともあります。
医療に活用できる確かな情報とするため、患者さんにご協力いただいて行われるのが臨床研究です。臨床試験のうち、新しい薬や医療機器が国の承認を得て一般の診療で使えるように、客観的なデータを集めることを目的として行うものを言います。
介入を伴う研究を実施しようとする場合は、研究を始める前に、臨床研究の内容を公開しているデータベースに研究計画書を登録することが義務付けられています。
もし、あなたが治験をする場合は、以下のところにアクセスして情報を入手してください。
次に、エビデンスの調べ方について説明します。
実際の論文の検索について
ざっくりな言い方をすると、エビデンスはイコール「論文」と考えてもらえば良いと思います。したがって、自分で調べるには論文を読まないといけません。
論文は、学会が刊行している学術雑誌に投稿されます。学会がその論文を掲載するかどうかを判断し、定期的に出版されるものが学術雑誌です。この学術雑誌に投稿された論文がエビデンスの基になっています。
昔は、大学の図書館に行って、自分でコピーしたり、論文がない場合は、取り寄せて読んだものですが、最近ではパソコンがあれば、ほとんど見ることが可能です。
読むためには、学会に入会して年会費を払えば読めます。
日本の医学系の雑誌は、医学中央雑誌(医中誌Web)のデータベースで見ることができます。
個人で使う場合は、有料になるので、無料をご希望の方は、公共図書館に行ってください。
また、大学関係者は、自分の大学で無料で検索可能です。
内容については、日本語で書かれているので、さほど問題なく読めると思います。
次に、自宅のパソコンで簡単に検索できる論文検索ツールをご紹介します。
論文検索ツール
CiNii
「CiNii」は、論文、図書・雑誌や博士論文などの学術情報で検索できるデータベース・サービスです。
どなたでもご利用いただけます。日本の論文はこれで検索可能です。
J-STAGE
「J-STAGE」は、日本最大級の科学技術情報プラットフォームです。
国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォームです。
Web of Science
「Web of Science」は、厳選された世界の主要な学術雑誌の掲載論文を収録。論文の被引用数など引用関係の情報が充実しています。
「ある論文を引用した論文」や、「ある論文と引用文献が共通している別の論文」を探すことができます。
PubMed
「PubMed」は米国立医学図書館(NLM)の国立生物工学情報センター(NCBI)により提供されている世界最大級の論文データベースMEDLINE(メドライン)を、インターネットで検索できるサービスです。
1997 年、NLM は、MEDLINE を含むPubMed(パブメド)という検索システムをインターネット上に無料で公開を開始しました。
医療といったらPubMedと言われるぐらいで、医療関係者にとっては、バイブルのようなものです。
PubMed cloud
「PubMed cloud」は、PubMedを日本語で読めるようにしたサイトで、現在の医師数が約32万人として12万人が登録してるようです。
ちなみに医療関係者なら登録できるので主宰者も登録しています🤓
Google scholar⭐️
「Google Scholar」は、Googleの提供する検索サービスの一つです。主に学術用途での検索を対象としています。Googleはそのデータベースのサイズを公開していません。
あくまでも個人的な感想ですが、これ一つでいいのではないかと思っています。
理由は簡単です。
登録は必要ない、誰でも自由に使用でき、今まで紹介して来た検索サイトのほとんどを網羅していることと、グーグルなので、様々な国の言語で書かれた論文も閲覧でき、さらに、グーグルの翻訳機能を使えば、ほとんど母国語に瞬時に翻訳してくれるので、すごく便利だからです。
Google Scholarではトップページには「巨人の肩の上に立つ」(Stand on the shoulders of giants)の標語がスローガンで掲げられているのです。
これがなんとも粋です。
その意味するところは、偉大な先人たちの業績やすでに行われた研究などを巨人に例えて、現在の学術研究の新たな知見やフォーカスするところは、今までの積み重ねの上に構築され、その上に新しい発見等があることを端的に示した言葉とされています。
ちなみに、この言葉は、ベルナールやニュートンが言ったと言われていますが?
使い方は、すこぶるシンプルなので誰でも使いやすいと思います。
ただし、検索に関しては、漏れがあると思われますので、論文等を作成する場合や、さらに詳しく検索したい方は、不向きかもしれません。
しかし、エビデンスに関する文献を検索するにはこれで十分だと思っています。(あくまで個人的感想)
ほとんどの人が便利でGoogle Scholarを使用しているので今更の感はありますが(そのうちGoogle Scholarの使い方と英語の論文の見方をアップします。)
番外編
ブラウザについて
主宰者の使用しているパソコンはMacなので、ブラウザはSafariが標準搭載されていますが、ブラウザはあえてGoogle Chromeを使用しています。
理由は、Google Scholarを使用しているからです。
また、世界中の人がGoogle先生のお世話になっているので、ブラウザは、Googleの純正アプリであるGoogle Chromeを使用している人が最近は多くなりました。
もしかしたら、近い将来、さらに使い勝手が良いブラウザが現れるかも知れません。
ブラウザの変遷を可視化したものがありますので、ご覧ください。(下記の画面をクリックするとビデオが始まります)
Usage Share of Internet Browsers 1996 – 2019 [OC] from r/dataisbeautiful
本の検索について
本の検索もパソコンで可能です。しかし、本の情報は、本になった時点で情報としては古いものになってしまっていますので、最新の情報ではありません。しかし、概念とかメンタルモデルを学習するには最適なものです。
本の検索もGoogle先生にお世話になることになります。
Google book
Google bookは、書籍の全文が登録された世界最大級の包括的なインデックスを検索できます。
論文とは違いますが、本の検索もGoogleで可能です。本を探すときは非常に便利です。大学の図書館の著作権が完了したものは検索可能です。
代表的な図書館を下記に示します。
慶應義塾図書館(慶應義塾大学)
2007年7月6日に提携を発表慶應義塾大学が所蔵する蔵書のうち、著作権保護期間が満了したパブリックドメインの書籍約12万冊をデジタル化してGooglebookを通じて公開しています。
日本で提携しているのは、現時点(2020年3月)では、慶應義塾大学のみの様です。
ハーバード付属図書館(ハーバード大学)
ハーバード大学が400年近くかけて収集した書籍のうち、著作権保護期間が満了した約1550万冊の書籍について、その内最低でも100万冊以上をデジタル化してGooglebookを通じて公開しています。
スタンフォード大学付属図書館(スタンフォード大学)
スタンフォード大学が有する蔵書800万冊のうち、数十万冊から百万冊程度をデジタル化してGooglebookを通じて公開する予定。両者の間で最終的なスキャン冊数に関する合意は特にないらしく、状況に合わせて流動的に変化していく模様です。
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