活性酸素と歯周病
Reactive oxygen species and periodontal disease
「活性酸素」は、すでにほとんどの人に認知されているワードです。
活性酸素が体を傷つけ、これが原因でほとんどの病気が起きているのではないかとも言われています。
ちなみに、歯周病とも深い関わりをもっています。1)
歯周病は細菌感染によって引き起こされます。したがって、感染によって炎症が起きると、体は細菌から体を守ろうとする免疫反応を起こします。
その結果、炎症部位には好中球が集まってきます。好中球はその殺菌作用によって感染から体を守ろうと働きます。
この殺菌作用は、活性酸素の強力な酸化力によって行われています。2)
ここまでは活性酸素の有用な部分いわゆるジキルの一面です。
炎症が悪化し、慢性化してきたり、ストレス等により活性酸素が過剰に作られると、活性酸素の有害なハイドの部分が顔を出してきてしまいます。
過剰な活性酸素は正常細胞までも傷をつけることを始めてしまいます。活性酸素は、有用な面と有害な面を持つジキルとハイドです。
本日は、歯周病とも関係あるジキルとハイドな活性酸素についてです。
殺菌とは
まず、活性酸素が行っているジキルな面の殺菌についてです。
「殺菌」とは、英語ではsterilizationです。また「滅菌」もsterilizationを使います。これに対して「消毒」は、disinfectionを使用します。「感染」がinfectionなので否定の意味を持つdisをつけて消毒の意味を持つdisinfectionとして憶えたと思います。
ちなみに、「滅菌器」はsterilizerで、「滅菌する」はsterilizeです。
脱線ついでに、滅菌するときに滅菌バックに入れて滅菌しますが、臨床では、パウチして滅菌と言っています。
滅菌バックは、英語ではsterilization pouchです。pouchは日本語にすると小物入れのポーチです。ところがpouchは発音するとどちらかというとパウチに近い発音です。それでパウチと言われるのではないかと思っています。(あくまでも主宰者の意見なので裏付けはありませんので悪しからず🤗)
話を本題に戻します。
体に入ってきた細菌等は、顆粒球の中の好中球によって殺菌されます。また、殺菌は、80%が好中球で行われています。細菌等を活性酸素で酸化することにより殺菌します。
メカニズムはざっくり以下の様になります。
オプソニン化 された細菌等が好中球に取り込まれると好中球膜に包まれ食胞を作ります。
好中球に取り込まれた細菌は、NADPH *オキシダーゼによって酸素から合成されたスーパーオキシドによる攻撃をうけます。さらにスーパーオキシドは、迅速に水と過酸化水素に不均化反応を起こします。生成した過酸化水素は、ミエロペルオキシダーゼと反応して塩素イオンの酸化を可能にします。これにより塩素イオンは、次亜塩素酸となり、細菌を攻撃し、殺菌します。
この過程で生成された「スーパーオキシド」や「過酸化水素」や「次亜塩素酸」が活性酸素です。
体での細菌やウイルスの殺菌は、活性酸素によって行われています。
ここまでが、活性酸素のジキルの面です。
今度は、ハイドな部分を次亜塩素酸水でフォーカスしてみます。
次亜塩素酸水の殺菌メカニズムは上記で説明したものと同様です。
次亜塩素酸水賛成派は、人間の体の好中球で活性酸素である次亜塩素酸が生成されて、細菌やウイルス等を殺菌するジキルの面をフォーカスして、人体で生成されるので安全だとしています。
ところが、違う面のハイドの面をフォーカスしてみると、好中球で作られる次亜塩素酸は、オプソニン化した細菌やウイルスに好中球内で放出されますが・・・
次亜塩素酸水の次亜塩素酸は、オプソニン化しているものの区別をすることは出来ません。要するに形振り構わず、最初に出会ったタンパク質を酸化しはじめて、細胞を傷つけてしまうことです。
さらに、次亜塩素酸は、図1に示す様に、スーパーオキシドと反応して最強な活性酸素のヒドロキシルラジカルを発生させてしまいます。
さらにさらに、次亜塩素酸は、抗酸化物であるSODやカタラーゼの働きを抑制してしまいます。
要するに、次亜塩素酸は活性酸素であり、活性酸素のサポーターもしてしまうのです。
この様に、次亜塩素酸のハイドな有害な部分は、あまり公にされていません。
過剰な次亜塩素酸水による次亜塩素酸が、酵素や抗酸化物などの酸化ストレスの防御系のキャパを超えてしまうと健康な口腔内の組織も傷害してしまうことは、想像に難しくありません。
次亜塩素酸は活性酸素であり、体内で行われている殺菌は、殺菌することが必要なものを活性酸素で酸化することで行われていることをお忘れなく!
強烈な酸化剤でありかつ最強の活性酸素であるヒドロキシルラジカルを発生せさせる次亜塩素酸水(次亜塩素酸)によって細菌等はやっつけることができますが、酸化ストレスでデイリーに口腔粘膜も痛めつけられてしまいます。
過ぎたるは猶及ばざるが如しでしょうか?
NADPH *:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)
活性酸素とは
活性酸素は、英語では「Reactive Oxygen Species」です。
「Reactive」は活性で、「Oxygen」は酸素、「Species」は種なので「活性酸素種」と訳すのが正しいと思います。「Reactive Oxygen Species」は、「ROS」と略されます。
活性酸素とは、「他の物質を酸化させる力が非常に強い酸素等」のことと考えていただけたら良いと思います。
酸化といえば錆をイメージします。酸素がないと人間は生きていくことができませんので体に悪いイメージはありませんが、見方を変えると、酸素によって体が錆びてボロボロになっていくことになります。
酸化とは、体を錆びさせたり老化を早めたりして体に良いものではありません。
ところで、活性酸素にはいろいろ種類があり、それらをまとめて「活性酸素種」と言います。
私たちは呼吸によって大量の酸素を体内に取り入れていますが、そのうちの約2%が活性酸素種になるといわれています。
この2%によって体が酸化し、老化が進行して、さらに場合によっては体が痛めつけられて病気の原因になってしまいます。
活性酸素種には
活性酸素種とは、酸素分子よりも酸化力が強い酸素や酸素の誘導体のことで、「スーパーオキシド」「過酸化水素」「一重項酸素」「ヒドロキシルラジカル」の4種類があります。
中でも、ヒドロキシルラジカルは悪玉の活性酸素として有名です。簡単にそれぞれについて説明します。
スーパーオキシドについて
皮質との反応性は低く、細胞膜を通過することはできません。あまり悪さはしませんが、そのほかのROSと反応して悪さをしますので侮ることはできません。
これがあると、活性酸素の仲間である過酸化水素水やヒドロキシルラジカルを発生させる元凶になります。
体内にはこれを消去する酵素があります。SOD酵素と言われます。
過酸化水素について
過酸化水素というとほとんどの人はオキシドールをイメージすると思います?
オキシドールは、過酸化水素が水に溶けているものです。過酸化水素は、活性酸素なので、傷口を消毒するのにもってこいです。以前は、ほとんどの医院で使用されていましたが、健康な組織も痛めつけられるということで最近ではあまり使用されなくなりました。
ちなみに、傷口にオキシドールをかけると泡が出るのは、カタラーゼによって過酸化水素が分解されて酸素が出るためです。
細胞膜は通過可能です。
過酸化水素は、カタラーゼ反応とペルオキシダーゼ反応で消去されます。
一重項酸素について
普段何気に酸素と言っているものや私たちが生きていくために呼吸している酸素は、安定した形で存在する通常の酸素で、「三重項酸素」といいます。
これが、何らかの原因で不安定な形になったものが「一重項酸素」です。
「一重項酸素」は、活性酸素のひとつで、安定した「三重項酸素」と比較して高いエネルギーを持っています。
スーパーオキシドや過酸化水素よりも反応性が高く、酸化力が高く、アミノ酸のヒスチジン、トリプトファン、メチオニンとよく反応します。
体内には消去酵素はありません。
したがって、抗酸化物質を摂取するほかありません。有名なものとしてアスタキサンチンがあります。
アスタキサンチンは高い抗酸化作用を持ち、紫外線や脂質過酸化反応から生体を防御する因子として働いていると考えられています。アスタキサンチンの肌への抗酸化力はβ-カロテンの約10倍、コエンザイムQ10の約800倍、ビタミンEの約1000倍、ビタミンCの約6000倍にも達するとされています。 また、アスタキサンチンは光障害から目を保護すると言われています。
ヒドロキシルラジカルについて
活性酸素種のなかでは最も反応性が高く、最も酸化力が強く、あらゆる物質と反応します。言い方を変えると体には一番悪いものです。
当然のごとく、消去酵素はありません。
過酸化水素への紫外線の照射や、酸性条件下で過酸化水素と2価の鉄化合物を触媒にしたフェントン反応によって生成されます。
ヒドロキシルラジカルを消去する酵素はありません。したがってなるべく発生しない様にしないといけません。
ヒドロシキラジカルを消去するものとして、最近、注目を集めているのが、H2です。水素は、活性酸素の中で最も悪玉であるヒドロキシルラジカルを選択的に消去します。
H2は、水溶性でも脂溶性でもあるため細胞内のあらゆる場所で作用することができます。
「ラジカル」と「非ラジカル」
ラジカルとは
ラジカルとは、化学では遊離基のことで、対をなさない電子を一つまたはそれ以上もつ原子または原子団。一般に、分子が熱・光・放射線などの作用を受け結合が切れて生じ、不安定で反応性がきわめて大きいものです。
非ラジカル
不対電子を持たないものをいいます。
活性酸素の有害な部分
図4に示す様に、活性酸素の有害な部分としては、体にとって過剰な活性酸素によって細胞が攻撃されると、細胞膜の脂質が酸化します。また、細胞の核が損傷すると細胞が死滅したり、LDLコレステロールが酸化されると血管の老化を促進します。このように活性酸素は細胞を傷つけたり死滅させることによって、細胞の老化を促進してしまいます。
ヒドロキシルラジカルを利用した歯周病治療
過酸化水素水からヒドロキシルラジカルを発生させるには、フェントン反応や過酸化水素に波長が200~300nmの紫外線を照射したりして発生させていますが、このヒドロキシルラジカルによる歯周病治療器は、 3%過酸化水素に対して青色可視光(波長:405 nm 付近)を照射することで光分解反応を引き起こしてヒドロキシルラジカルを生成して殺菌を行うものです。
原著論文3)には、正常組織に対する副作用について、前実験4)5)で組織為害性は少ないとしていましたが、ラットが3回の治療を受けた場合でさえ、口蓋粘膜に異常な所見は観察されなかったという回数の少なさが気になるところでした。
まとめ
活性酸素は有用な面と有害な面の両方な面を持っています。
有用な面としては、細菌やウイルスを殺菌してくれている
有害な面としては、過剰な活性酸素は、様々な病気や老化の原因
活性酸素を応用した歯周病治療器の可能性がある
活性酸素は、細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、過剰な産生は細胞を傷害し、がん、心血管疾患ならびに生活習慣病など様々な疾患をもたらす要因となります。活性酸素の産生が抗酸化防御機構を上回った状態にならない様に注意が必要です。
参考文献
1)李昌一. “『酸化ストレスと歯周病』 生活習慣病・血管病としての歯周病.” 日本薬理学雑誌 144.6 (2014): 281-286.
2)鎮守信弘, et al. “多形核白血球の殺菌機構 とくに辺縁性歯周炎患者末梢血および歯肉溝浸出多形核白血球の活性酸素産生について.” 日本歯周病学会会誌 29.2 (1987): 522-529.
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