異性化糖について

About isomerized sugar

異性化とは、ある分子か原子の組成は全くそのままに、原子の配列が変化して別の分子に変換してしまうことです。例えば、ブドウ糖を果糖に異性化させるには、60 ℃ で異性化酵素のグルコースイソメラーゼを加え、約半分のブドウ糖を果糖に変化させます。

異性化糖の名称はこのブドウ糖が果糖に異性化する反応に由来しています。

異性化糖は、英語では「Isomerized sugar」ですが、主にブドウ糖からなるコーンシロップを、酵素かアルカリによって異性化した果糖とブドウ糖を主成分とする糖をいうので 「high~fructose corn syrup」: HFCSと表記することもあります。

企業的にはコスト面で安価なことからいろいろな食品に使用されるようになっていますが、異性化糖を使用することによる健康面に対することも問題になってきています。

そこで、異性化糖についてフォーカスしてみました。

異性化糖の歴史

異性化糖はアメリカで開発されたように思われていますが、実は、1965年(昭和40年)で参松工業が世界に先駆けて生産しました。

当時日本は、戦後の食糧難で馬鈴薯の生産を奨励していたのですが、1960年代に入ると食糧難も緩和したため馬鈴薯がダブついていた時期でした。そこで、馬鈴薯からでんぷん粉を作り、さらにそれをブドウ糖にしていました。ところがブドウ糖は砂糖の70%の甘さしかありません。ブドウ糖を砂糖と同等の甘さにできないだろうかと異性化糖の開発が始まりました。さらに当時は砂糖を輸入していましたが、外貨の乏しい日本はあまり輸入することができませんでした。そこで、異性化糖の開発に拍車がかかりました。

余談ですが、今では信じられないと思いますが、当時は、1ドル=360円でしかも固定為替相場制でした。現在は、1ドル=約150円なので、これと比較すると当時はだいぶ円安だったわけです。1973年以降は、現在の変動為替相場制となりました。

話を戻します。

そして、開発に成功することになるのですが、液糖を使用することのなかった当時の日本ではなかなか受け入れてもらえず、しばらくは不人気でした。ところが、コカ・コーラ社がアメリカで採用した頃から急速に使用が拡大しました。

ちなみに、アメリカはキューバ危機以降キューバからの砂糖が輸入出来ず、液糖に頼らざるをえなかったことも後押ししたようです。

その後、日本でも清涼飲料水をはじめ様々な食品に異性化糖が用いられるようになりました。

異性化糖の分類

ブドウ糖果糖液糖」は果糖含有率が 50 % 未満のもの、「果糖ブドウ糖液」は糖果糖含有率が 50 % 以上 90 % 未満のもの、「高果糖液糖」は果糖含有率が 90 % 以上のもの、「砂糖混合異性化液糖」は液糖に 10 % 以上の砂糖を加えたものです。その液糖が果糖ブドウ糖液糖であれば、砂糖混合糖果ブドウ糖液糖となります。

ほとんどが、食品メーカーに液糖として販売されています。コスト面では、砂糖の約7割ぐらいで安価なため、清涼飲料水、缶詰、ドレッシング等様々なものに使用されています。

異性化糖は固形化・粉末化が難しく、砂糖のように袋詰めにできません。スーパーなどで販売されていないので一般消費者は見ることが出来ませんが、唯一、ガムシロップとして販売されていますので購入は可能です。

ガムシロップは異性化糖!

ガムシロップは、砂糖と水、アラビアガムを煮て作ったものでしたが、現在ではほとんどが、異性化糖の果糖ブドウ糖液糖が使用されています。理由は、ガムシロップは、冷たいものに入れると簡単に混ざるし、甘さが増すからです。

ちなみに、果糖ぶどう糖液糖は、40℃以下の低温の場合にのみ甘く感じる特徴があります。そんな訳で、アイスコーヒーに使用します。60℃以上になると砂糖の8割くらいの甘さしか感じません。

したがって、ホットコーヒーには砂糖を使用します。

異性化糖の問題点

異性化糖は、アメリカでは、肥満、糖尿病の原因になるという理由で、使用禁止活動が広がっています。

有名なところでは、ミッシェル・オバマ大統領夫人がジャンクフードと一緒に異性化糖を使用した飲み物を学校から排除するような活動をしました。日本ではほとんど問題になっていませんがアメリカでは異性化糖は厄介者扱いです。

近いうちに、日本でも問題になるでしょう?

異性化糖が中性脂肪を作る

異性化糖は、ブドウ糖と果糖の2種類が混ざっている糖です。

ブドウ糖は、小腸から吸収され、血液中に入り、全身の細胞に運ばれエネルギーとして利用され、余ったものは中性脂肪として蓄積されます。

果糖は、ほとんどが肝臓で代謝されるので、血糖値は上がりません。しかし、肝臓で中性脂肪に変換され、脂肪として蓄積されます。

ブドウ糖より果糖の方が中性脂肪になりやすいのです。

脂肪は脂っこいものをイメージしますが、中性脂肪値をあげるのは糖質(果糖)です。

血液検査で、中性脂肪値が高い人は、食事における糖質(果糖)の摂取について注意してみたらいかがでしょうか?数値が下がるかもしれません。

急激な血糖値の上昇が問題になる

異性化糖は、砂糖に比べて肥満や糖尿病になりやすいことが明らかになっています。異性化糖が出現するまでは、糖質の摂取は、2糖類あるいは多糖類を摂取してこれを体内の消化酵素で分解して単糖類にしてエネルギー源としていました。

ところが、異性化糖は、ブドウ糖と果糖が結合していなくそれぞれ存在しています。分解の必要がないため、すぐに吸収され急激な血糖値の上昇をもたらしてしまいます。

その結果、急激な血糖値の上昇に対するインスリンの分泌にも影響を及ぼし、糖尿病の引き金になってしまいます。

メイラード反応による糖化

糖尿病といえばそのバイオマーカーとしてヘモグロビンA1cが頭に浮かんできます。

これは、ヘモグロビンという蛋白に糖が結合したものです。ヘモグロビンA1cは最終糖化物で、いわゆる「糖化(glycation)」によりadvanced glycation end products (AGEs)と呼ばれる生成物なのです。この糖化の反応を「メイラード反応」といいます。

メイラード反応は、糖とアミノ酸で起こります。糖とアミノ化合物が結合し、分解や反応などを繰り返すした結果、「メラノイジン」と呼ばれる褐色物質が生まれます。

ステーキを例にしてみると、鉄板の上でステーキを加熱すると細胞内の糖とアミノ酸が流出し、それらが結合されて褐色に変わり、香ばしさが増して美味しくなります。これがメイラード反応です。

非常にざっくりですが、褐色に変化する反応がメイラード反応と考えてもらっていいと思います。例えば、パンケーキ、トースト、お好み焼き、焙煎コーヒー豆、意外なところでチョコレートもメイラード反応がないと芳醇な香りはしません。

さらに余談ですが、肉汁が肉に含まれているとステーキはさらに美味しくなります。だから、レアかミディアムレアの焼き方が美味しいのです。

食物の場合のメイラード反応は、こんがりといい香りがする反応ですが、生体内で起こるメイラード反応は好ましくない反応です。白内障、動脈硬化、アルツハイマー病などでは、体内におけるメイラード反応生成物の蓄積が進行しているといわれています。

血糖値が上がるのを忌み嫌うのは、メイラード反応によって細胞がダメージを受けてしまうからです。

糖質と脳

疲れたときに甘いものが食べたくなることありませんか?

これは、血液中のブドウ糖が不足し、脳に唯一のエネルギー源であるブドウ糖が行きわたっていないために脳が甘いもの(ブドウ糖)を欲している状態なのです。

脳にはブドウ糖が必要だから

血液中にブドウ糖が増える状態つまり血糖値が上がることは脳にとってはある意味で快感になります。人にとって心地よい刺激や行動があると快感をもたらすドーパミンが分泌されるようになっています。これは、脳の快感に関わる報酬系で処理されています。つまり甘いものは快感をもたらすもので、報酬系を活性化するように甘いものを求めるようになってしまいます。さらに、甘いものは味覚神経系を介して報酬系を活性化します。

糖質(ブドウ糖)は脳内報酬系を刺激する物質なので・・・

脳が、あるものを摂取することによってそれに含まれている糖質によって報酬系が刺激されることを学習してしまうと、それを摂取しようとする行動を始めてしまいます。この行動は、薬物依存症とまったく同様です。

ちなみに、企業にとって好ましい商品とは、消費者が何度もリピート購入してくれる商品です。

なぜ、繰り返し買ってしまうのかというと「美味しいから」購入してしまうのですがちょっと見方を変えると報酬系が刺激されてしまうからまた購入してしまうのです。

コカコーラを例にして考えてみると、コカコーラには大量の砂糖が含まれています。ちなみに、500mlに57g含まれています。コカコーラは美味しいからリピート購入するのは、コカコーラに含まれている糖質の依存症になっているからとも考えられます。

まとめ

異性化糖は糖化しやすい

異性化糖は健康面にはマイナスなもの

大企業が消費者に売っている甘いと認識できるものは、ざっくりですが、ほとんどが異性化糖を使用しています。私たちが口にする、清涼飲料・パン・缶詰・乳製品などにほとんど使用されているのが現状です。

理由は、異性化糖の方が安価なため企業としては利益が出るためです。

健康のためにと飲んでいる「ヤクルト」にも異性化糖が使用されています。

自分が口にしている物をチェックしてみてください。

参考文献

1)Pase, Matthew P., et al. “Sugar-and artificially sweetened beverages and the risks of incident stroke and dementia: a prospective cohort study.” Stroke 48.5 (2017): 1139-1146.

2)Suez, Jotham, et al. “Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota.” Nature 514.7521 (2014): 181-186.

3)Hirai, Shinobu, et al. “High-sucrose diets contribute to brain angiopathy with impaired glucose uptake and psychosis-related higher brain dysfunctions in mice.” Science advances 7.46 (2021): eabl6077.

参考ビデオ

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