熱中症について
About heatstroke
人間は、体温を一定に保つ様に脳の視床下部でコントロールしているといわれています。
体温を一定に保つために「熱産生」と「熱放散」をして行っています。
「熱産生」とは身体が熱を作る働きで、「熱放散」は身体の外に熱を逃がす働きをいいます。
「熱中症」とは、この体温維持機構のバランスがおかしくなってしまい体温の上昇と、アイキャッチに示すように、それによって生じる体のさまざまな異常の総称です。
ちなみに、熱中症のことを英語では「heat stroke」と言います。「heat」は熱、「stroke」は発作ですね。
一字違いの「heart stroke」は心臓発作です。
人は体内の温度が上がると、その温度を下げるために皮膚の血管に血液を多く流す様になります。これによって熱を体の外に放散させようとします。体が暑くなった時に皮膚が赤くなるのは、皮膚の血流が増えているからです。このまま立っている姿勢を続けていると脳に血流が行かなくなり熱失神が起こります。
また、夏の炎天下での運動時には大量の汗をかくことによって体温を下げようとします。この際に、水分だけでなく塩分も出てしまいます。水あるいは塩分濃度が低い飲み物を摂取すると、血液中の塩分濃度が低下し、筋肉が収縮すると硬くなって緊張し、激しい痛みを伴う熱痙攣が起こります。
事実、真夏のゴルフのラウンドで何度か経験したことがあります。
軽症の熱けいれんは、涼しい環境で休むことや、塩分を含んだ飲みものや食べものを摂取することで治ります。
ここまでは I 度の範疇で、現場の応急処置で対応できる軽症ですが・・・
Ⅱ 度以上になると病院に行かないと命が危険になります。昨今の夏場の記録的な高温はややもすると命の危険な状態にもなりかねません。したがって、熱中症に関するリテラシーが必要です。
体液について
人間は、体の60%が体液で構成されています。体重が60kgとすると体液の量は36ℓになります。体液は、細胞外液が20%で細胞内液が40%になります。細胞外液は、〔組織液、組織間液(間質液)〕が15%、血漿が4%、リンパや脳脊髄液が1%となっています。細胞内液はエネルギー産生やタンパク合成など、代謝反応に関係しています。細胞外液は循環血液量を維持し、栄養素や酸素を細胞へ運搬したり、老廃物や炭酸ガスを細胞外に運び出す役割を果たしています。
脱水は怖い!
人間の体の約60%は水分でつくられています。例えば、体重が60Kgある人なら36ℓが水分です。それだけ水分は体を維持することに必要で、足りなくなると生命に関わることもあるのです。
図2に示すように、体から5%ぐらい水分が失われると口が渇き始め筋肉の痙攣が起こります。さらに10%ぐらい失うと循環不全が起こり、臓器不全が起こります。そして、20%失うと死に至ってしまいます。
熱産生とは
熱産生とは、字の如く、「熱を作ること」で、英語は、日本語をそのまま訳した様な、熱を産生する「heat production」と言います。
体温調節中枢には、体温を一定に保つ働きがあります。通常は、体内酵素が活性化する温度すなわち37℃前後に保たれています。ところが、病原体が体に侵入してくると病原体の増殖至適温度域よりも高くすることで、その増殖を抑制しようとします。ちなみに、インフルエンザや新型コロナ等に感染すると高熱が出るのはそのためです。
またそのときに起こる皮膚血管の収縮、立毛筋の収縮によって生ずる異常な感覚を悪寒といいます。さらに、筋肉の収縮によって熱を産生しようとします。このときに起こるふるえを戦慄といいます。
悪寒と戦慄が発現したら高熱が出るサインです。
このように、筋肉によって熱を産生しています。
運動をすると、全身の骨格筋が働くため熱の発生が高まります。このままでは、体温が上がってしまうので熱を下げようとします。これを熱放散といいます。
熱放散とは
熱放散とは、これも字の如く、「熱を放散すること」で、英語では「radiation of heat」と言います。ちなみに、車のエンジンを冷却するための部品の放熱器はradiatorと言いますねぇ。車もエンジンが冷却できないとオーバーヒートしてしまい動かなくなってしまいます。人間も同様で熱を放散しないと熱中症になってしまいます。
熱の放散の方法
熱の放散は概ね2つで行われています。
①皮膚に血液を集める
②発汗
①皮膚に近い毛細血管に血液を集めることによるクーリング
人は体内の温度が上がると、その温度を下げるために皮膚に近い毛細血管に血液を集め出します。そして、ここで熱を体の外に放散させようとします。暑くなった際に皮膚が赤く見えるのは、皮膚近くの毛細血管の血流が増えているためです。
冒頭でも述べましたが、このまま立っている姿勢を続けていると脳に血流が行かなくなり熱失神が起こります。外気温が高くなると血液では熱放散ができなくなってしまいます。
そこで次の方法を用います。
②発汗することによるクーリング
高温になると、主に汗の蒸発による気化熱が体温を下げます。汗をかくと水分と一緒に塩分が体外に出てしまうので、体内の水分や塩分が不足して血液の流れが悪くなります。
大量の汗をかいた場合、水だけの補給ではだめで、水分と塩分の補給が必要です。
私たちの体は、血管を利用して外気に体内の熱を放射したり、汗をかいて蒸発させたりして体温の上昇を防いでいます。しかし、気温が高いと体内の熱は放散できません。また、湿度が高いと汗は蒸発しません。
熱中症は、周りの温度に体が対応することができず、体内の水分やナトリウムなどのバランスが崩れ、体温の調節機能がうまく働かないことで発生します。
水だけ補給してもダメ!
人間の細胞の体液(組織液)の塩分濃度が0.9%というのがポイントです。この数値は、高過ぎても、低過ぎても問題があります。人間の細胞の体液の塩分濃度は、0.9%でなければ生きていくことができません。人間は、体液の塩分濃度を0.9%になるようにしています。
余談ですが・・・
進化の過程で、水から陸に上がるときに海という外部環境を人間の体の中の内部環境に再現することが出来たからといわれています。ちなみに、人間の体液の成分は、生命が誕生した頃の太古の海水の成分と同様で太古の世界の記憶といわれています。
さらに、余談ですが、外科処置で骨などを削る場合は、塩分濃度0.9%の生理食塩水をかけることで冷却します。生理食塩水は、体液と浸透圧がほぼ同等なので、術後の腫れ等があまり起こらないからです。
さて、大量の汗をかくと一緒にナトリウムが失われてしまいます。汗がしょっぱいのはナトリウムが含まれているからです。水だけを飲むと血液のナトリウム濃度が薄まります。ナトリウムの濃度を下げないように余分な水分を尿として排泄してしまいます。医学的にはこれを自発的脱水症と言います。
逆に、塩分の多いものを食べると、濃度を下げるために水が飲みたくなりますねぇ。これも、濃度を一定に保つためです。
つまり、水分を補給するときは、ナトリウムのことも考える必要があります。(熱中症の補水についてを参照してください)
体液が水の理由は?
水は、たくさんの物質を溶かすことができる溶媒だから
栄養素、酸素、二酸化炭素、電解質、老廃物等を溶かし込んだり、排出することが可能だからです。
さらに、比熱が大きいことが関与しています。
比熱とは、1gの物質の温度を1℃上昇させるために必要な熱量のことです。比熱が大きいということは、温度を上げるために多くのエネルギーが必要ということになります。もし、比熱が小さいと外気温が高くなるとすぐに体温が上昇してしまいます。
水は気化熱が大きいことも関与しています。
打ち水をすると涼しくなることは、私たちは、生活の知恵で知っています。これは水が気化するとき熱が奪われることによって起こります。お風呂に入った後、皮膚の水滴をちゃんと取りなさいと小さい時に言われたと思います。これも気化熱が奪われるので湯冷めして風邪をひいてしまうからです。これと同じことで、暑い時は汗をかいて皮膚の表面から気化熱を奪われることで体温を下げようとします。
熱中症予防方法
熱中症の予防方法は図4に示すように、「暑さを避けること」と「水分補給をすること」です。
屋内にいる場合は、エアコンや扇風機を利用して、温度や湿度が適切に調節されていれば熱中症にはなりませんが、高齢になると暑さが感じにくくなるので常に温度や湿度をチェックする必要があります。さらに、水分補給もする必要があります。また、子供も体温調節機構が未発達のため水分補給が必要です。
屋外にいる場合は、涼しい服装にして日傘や帽子を使用し、こまめな水分補給が必要になります。
また、天気予報と同様に、熱中症の発生が数値で予報できるようになりました。
暑さ指数
熱中症の予防を客観的に数値で評価できるものに、暑さ指数があります。これは、(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)のことで、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。
単純に気温だけでなく、湿度や日差しの違いをも考慮して、熱中症予防につながるのが暑さ指数(WBGT)です。
図5からもわかるように、暑さ指数は、湿度の割合が7割を占めています。暑さ指数は、温度よりも湿度が関与していることが解ります。同じ温度なら湿度が高い方が、暑さ指数が高いことになり、熱中症になりやすいことになります。
暑さ指数が28以上は危険なゾーンということです。
2021年に、環境省と気象庁は、全国を対象に、暑さ指数の予測にもとづいた「熱中症警戒アラート」の運用を開始しました。
警戒アラートをチェックして予防する様にしてください。
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