次亜塩素酸水について
About hypochlorous acid water
はじめに
以前、当ブログでも触れたことがある「次亜塩素酸水」=「魔法の水」ですが、新型コロナウイルスの影響によるアルコール消毒剤の不足により代用品として注目される様になりほとんどの人に認知されるものになりました。
今回の新型コロナウイルスは、皮肉にも衛生的な日本人の消毒に関する知識や公衆衛生に関するリテラシーをボトムアップすることになりました。
それ故に、患者さんからの消毒、特に次亜塩素酸水に関する問い合わせも多く、明快な回答をしたいところですが、正直なところ、10年ぐらい未だ自分の中で未解決の部分が多くモヤモヤした状態が続いています。
理由は簡単で、消毒効果はありますが、雑貨に分類されるが故に、人体に関するエビデンスがほとんどありません。これがモヤモヤの最大の原因です。
人体に使用しても良いものなのか、疑問が払拭できず躊躇しています。
ほとんどの人が認知していることですが、医療関係は厚生労働省の管理下にあります。厚生労働省が認可しないものを使用するのはちょっと抵抗があります。
現実には、次亜塩素酸水は、施設や医療関係でも導入しているところも多く、一見問題なさそうに思われますが、あまりにも情報がありません。
当方の情報収集の仕方が不適切なために情報が入手できないのかもしれません。逆に考えると、導入している機関は、資料等様々なものを入手しているはずです。
問題がないことを確認して導入している訳です。
もし、当ブログをお読みになって、情報等をお持ちの方は、情報弱者にご教授よろしくお願いします。(情報をお持ちの方は、お問い合わせからお願いします。)
ところで、最近、次亜塩素酸水に関しての報告が厚生労働省ではなく、経済産業省から行われました。この検証試験の結果は非常に興味がそそられるものでした。2)
また今後新型コロナウイルスを用いた有効性評価に関わる検証試験が行われるので非常に楽しみです。
そもそも衛生に関わる物や製品の安全性を判断するのは厚生労働省ですることであり、経済産業省の管轄ではありません。新型コロナウイルスは行政機構をも変えてしまうウイルスなのでしょうか?
次亜塩素酸水は雑貨に分類されるので仕方ないといえばそれまでですが・・・
患者さんに奨励するには?
医薬品でないが故に消毒剤と名乗ることができない消毒ができる「魔法の水」を患者さんに推奨して良いものなのか・・・
ほとんどの医療関係者がまず思うことではないでしょうか?
短絡的に次亜塩素酸水の殺菌だけを考えると、大丈夫そうですが、違う角度から考察してみると、大丈夫なのかという疑問符が出てきてしまいます。
厚生労働省が認可したというものであれば、大手を振って患者さんにも奨励できるのですが・・・
しかしながら、厚生労働省は認可しなくても経済産業省のお墨付きで市民権を得られそうな、いやすでに市民権は得られているかもしれない「魔法の水」に対する再認識が必要の様です。
やはり、「魔法の水」だけあって呪文等を勉強しないと取り扱いが難しい様です。
そこで、今回は、次亜塩素酸水の噴霧について主にフォーカスして、ちょっと探究してみました。
次亜塩素酸水とは?
まず、次亜塩素酸水とはどういうものか調べてみました。
英語では、「Hypochlorous Acid Water 」と綴ります。
組成式では HClO となり、水素原子と塩素原子が酸素原子に結合した構造 H-O-Cl で不安定な物質であり、単体では存在できません。
水中ではPHの変化に伴い、Cl2、HClO、OCL–一定の比率で存在します。ちなみに、pHはこれらの割合によって左右されます。したがってpH測定は非常に重要になってきます。水溶液中では気温、紫外線などの諸条件によって比率が変化します。
HClOは酸化作用が強いので消毒が可能な訳です。逆に考えるとすぐに反応してしまい非常に不安定ということになります。したがって、長期保存が不可能ということです。
また、「次亜塩素酸が含まれている水」のことを「次亜塩素酸水」と呼びます。当たり前といえばそれまでですが・・・
つまり、次亜塩素酸水はちょっとでも次亜塩素酸が含まれていれば、次亜塩素酸水と呼ぶことが可能になる訳です。
そこで、厚生労働省は次亜塩素酸水について次の様に定義しています。
次亜塩素酸水の分類(厚生労働省)
厚生労働省は、次亜塩素酸水を『塩酸又は塩化ナトリウム水溶液を電解することにより得られる、次亜塩素酸を主成分とする水溶液である』としています。
次亜塩素酸水は、pHが2.2〜7.5までのものを呼び、pHにより強酸性、弱酸性、微酸性次亜塩素酸水と呼びます。
また、電気分解でpHが7.5〜9に生成された電解水を電解次亜水と呼びます。
厚生労働省は、
次亜塩素酸水は電気分解で生成されたもの
としています。
つまり電気分解で作られたもの以外は次亜塩素酸水とは認めないと言うことです。
次亜塩素酸水の闇の部分
実は、次亜塩素酸水はボトルに入れて販売することを許可されていません。巷に出回っているものは、闇販売しているものということになります。
現実は、電気分解で生成した次亜塩素酸が含まれたものに、pH調整剤と聞こえはいいが酸を混ぜ、あるいは次亜塩素酸ナトリウムにpH調整剤を混ぜてボトルに入れて厚生労働省が認可している食品添加物である次亜塩素酸ナトリウムと酢酸等を前面に打ち出しあたかも安全と言わんばかりにネット上で販売されています。
次亜塩素酸水を生成する機械は、個人用には作られていないのと、あっても高額のため誰でも簡単に入手することはできません。その当たりを狙った商品なのかもしれません。
これについて厚生労働省は
「添加物製剤には該当せず、その販売は認められない。」(厚生労働省 食安基発第0825001号 平成16年8月25日)
として、各都道府県衛生主管局長に通達しています。4)
さらに、法律の隙間を狙って、商品のネーミングを工夫して販売している悪徳業者が後を絶ちません。
医薬品や医薬部外品でないために規制が甘く、野放し状態です。
もしかしたら、あなたも悪徳業者に騙されて購入しているかもしれません。
厚生労働省の失敗?
厚生労働省は、次亜塩素酸水は、『塩酸又は塩化ナトリウム水溶液を電解することにより得られる、次亜塩素酸を主成分とする水溶液である』とはしたものの、次亜塩素酸水とネーミングしたことです。機械で作ったものを電解酸性水とか別の名称でネーミングすれば良かったのですが、それをしなかったがために、昨今の巷で溢れている薬液を混交して生成したボトルに入った効果があるのか不明な次亜塩素酸水が流通することになってしまったのかもしれません。
ちなみに、次亜塩素酸水と入力して検索してみてください。
次亜塩素酸ナトリウム(食品添加物)➕ 酸(食品添加物)
で生成したボトルに入った次亜塩素酸水まがいな商品がいっぱい検索されます。
次亜塩素酸水は、安定性にかけるので、もしその効力を最大限に発揮するには機械で生成されたものを瞬時に水道水を使うがごとくジャブジャブ使用しないと効果がありません。
なんでもそうですが適切な使用法が大切です。
ちなみに、次亜塩素酸が含まれる次亜塩素酸水を安定させるにはアルカリ性にして次亜塩素酸ナトリウムにしないと安定しません。
それ故に、次亜塩素酸ナトリウムという安定した形にして混ぜるな危険のパッケージを貼られ販売しているのが実際です。
ボトルに入った次亜塩素酸水は、不安定なため中身が微妙になってしまう可能性がありますので注意が必要です。
次亜塩素酸水の殺菌メカニズム
Cl2(塩素)を水に溶かすとHClO(次亜塩素酸)OCL–(次亜塩素酸イオン)が生成されます。家庭では、次亜塩素酸水は、この方法でなく食塩水や塩酸を電気分解することによって生成していますが、これらは強力な酸化作用を持っています。その作用によって菌体膜を破壊し酵素を失活させて殺菌作用を示します。3)
ざっくり説明すると、図3のAの部分ではOCl–(次亜塩素酸イオン)は、細胞壁や形質膜を酸化作用で損傷を与えます。しかしながら、OCL–は脂質二重層は通過できません。
ところが、図3のBに示す様に、非解離型のHClO(次亜塩素酸)は小さい分子サイズと電気的中性から容易に細胞壁や形質膜を通過でき、内部で酸化作用を起こし損傷を与えることが可能です。
酸化することによって、細菌を殺菌するのは、白血球が活性酸素を使って殺菌するのと同じです。
この様なメカニズムで体に侵入してきた細菌やウイルスを白血球は殺菌しています。
この次亜塩素酸のメカニズムを利用して、水道水は殺菌されています。ちなみに、水道水はこのメカニズムを次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行っています。
水道水の残量塩素濃度は0.1ppmと低いので、塩素の酸化作用が人の健康を及ぼすことがないのでほとんどの人が問題なく使用しています。
ここであえてほとんどの人と言ったのは、ほとんど以外の人とは、塩素濃度0.1ppmに関してセンシティブの人です。この人は浄水器をつけて使用しているか、飲み水は水道水は飲んでおらずミネラルウォーターを購入して飲んでいます。
この手の人は、後述する次亜塩素酸水を用いた空間除菌にもセンシティブになると思われます。
さらに、この残留塩素濃度が高濃度になったことを考えると恐ろしくなるはずです。
次亜塩素酸水の消毒効果について
塩素系の薬剤の消毒効果は、図4に示すように
殺菌力の強いHClO(次亜塩素酸)と殺菌力がその1/100のOCl–(次亜塩素酸イオン)の比率によって決まりますが、その比率はpHによって左右されます。pH6では約97%がHClOですが、pH7.5では50%、pH9では約3%と激減します。
つまり、消毒効果は次亜塩素酸の比率で決まります。ざっくり言うと次亜塩素酸の比率が多いと殺菌力は強くなります。
ただし有効で使用できる範囲がpHが4〜6.5ぐらいです。
さらに、pHが4以下の場合は塩素の発生もあるので注意が必要です。
また、図3に示す様に、次亜塩素酸水は強力な酸化作用による殺菌効果はありますが、低濃度で使用することや、タンパク質により殺菌効果が低減することからアルコール消毒とは違い、次亜塩素酸水を大量に使用して消毒しないと効力がありません。7)
要するに水道水で洗うがごとく次亜塩素酸水を使って洗わないと効果がありません。
このことを加味して厚生労働省は、電気分解をして生成された次亜塩素酸水を水道水の様に使える装置でないと有効でないとしたのかもしれません。7)8)
効果は、目を見張るもがあり、奨励に当たります。
ブログを書いている最中に興味ある知見がありました。それは、新型コロナウイルスに対する次亜塩素酸水の不活化効果を証明が帯広畜産大学から5月22日にプレプリントという形で発表されました。
ウイルス液と pH 4.5-6.0 EW を 1:15 の液量比で混合し、1 分間反応後の残存ウイルス量を評価しました。実験の結果、pH 4.5 (FAC 45 mg/L)や pH 6.0 (FAC 29 mg/L)の EW は、ウイルス液の 15 倍の液量であれば 1 分の反応時間でウイルスを 99.9%以上、検出限界以下まで不活化することが可能でした (図 2)。
なお上記に加え、タンパク質を多く含むウイルス液に対しては、pH 4.5 EW(FAC 45 mg/L) や pH 6.0 EW (FAC 29 mg/L) を用いて十分なウイルス不活化活性を得るためには更に大量の液 (場合によってはウイルス液の 40 倍量以上)が必要であることを示唆する結果も得られました。
新型コロナウイルスに対する次亜塩素酸水の不活化効果を証明 第 2 報
大量の次亜塩素酸水を使用しないと効果がないということが証明されました。11)12)
次亜塩素酸水で消毒する場合は
水道水の流水下でジャブジャブ洗う様に大量に使用
すると効果があるということです。
やはり、機械から排出される次亜塩素酸水を使用すべきということです。
次亜塩素酸ナトリウムは危険で次亜塩素酸水は安全は微妙
「次亜塩素酸ナトリウムは危険」だけど、「次亜塩素酸水は安全」はちょっと間違っています。次亜塩素酸水も濃度やpHを計測して適切に取り扱わないと危険です。
手に汚れがある場合は、まず汚れ水洗で落としてから使用しないと効果がありません。有機質とすぐ反応してしまい、効果が無くなっていまうからです。
適切に使わないと全く効果がありません。
不適切な使い方をすれば、効果があると思って使用しているものがただの水で全く効果が無い場合もあり得るのです。
次亜塩素酸系の消毒剤は、適切に管理し、使用しないと効力を発揮しませんし、安全ではありません。
逆に言えば、
有効濃度とpHが適切な次亜塩素酸水
なら効果があり安全です。
アルコールとは違い「魔法の水」だけに使い方が難しいかもしれません。
呪文は、
「有効濃度」「pH」「つくりたて」「大量に」
の様です。
先日、韓国製の消毒用アルコールが適切な濃度に満たさないものが販売され問題になりましたが、
新型コロナウイルスで悪徳業者が蔓延しています。
次亜塩素酸水の作り方
必要ないかもしれませんが、情報はインプットするだけでは十分でなくアウトプットしたほうがよく理解できると言われています。そこで、実際に次亜塩素酸水を自作してみました。
大きく分けて2つです。
薬液から作る(厚生労働省不認可な方法)
電気分解で作る(厚生労働省認可の方法)
どちらの方法で作られても、成分は次亜塩素酸が含まれている水溶液としての次亜塩素酸水には変わりはありません。
難しい化学の知識は必要なく中学の電気分解の知識と濃度の計算ができれば誰でも作成は可能です。
ただし、電気分解は装置もどきを自作しないとなりません。面倒な方は、既製品をご購入してください。廉価版は次亜塩素酸ナトリウムの割合が多いものが生成されてしまいますので、ご注意ください。
ちなみに、薬液を混ぜて生成したものを販売している業者は厚生労働省からしたら注意喚起の闇販売の違反業者になります。
ボトルに入った次亜塩素酸系の物を販売したら法律違反です。
個人で生成して販売しなければ注意喚起の対象にはなりません。
どちらにしても自作した場合は自己責任になります。
そのうち、別途作り方の詳細をアップするかもしれません?
次亜塩素酸水の空間除菌について
前置きが長くなりましたが、本日のブログの本題はここからになります。
結論から、空間除菌については、患者さんには、殺菌効果はあるが使用して良いものなのかよくないものなのか、「わからない」と言っています。どちらかといえば否定的で「推奨していません」。(ただし、手洗いや消毒に関しては肯定的です。)
次亜塩素酸水は次亜塩素酸の強力な酸化力によって殺菌をしていることは承知の事実ですが、これを利用して空間に噴霧してウイルスを不活化してしまうと言う考え方です。
当然のことですが噴霧しているものはエアロゾル化してブラウン運動で部屋という空間を漂うことになります。これによって部屋のウイルスを不活性化してしまうという考え方です。
もし、使用するとしたら一日中使用することになります。そして否が応でもミスト化してエアロゾル化した次亜塩素酸系のものを吸引することになります。
メーカーは、霧化粒子の吸入の安全性は、実験動物のレベルで確認されているとし、ラットを用いた90日間亜慢性吸入毒性試験では、雌雄ともに体重および一般状態において、また血液学的検査および肺の病理組織学的検査の結果において、特記すべき変化は見られないことが報告されているとしています。1)
例としては、あまり適切ではありませんが、血圧の薬を飲んでいる人が短期的には問題ありませんが、長期間使用すると歯肉から出血してくることを歯科医師のほとんどは臨床で経験しています。
治験を経て厚生労働省の認可が出た薬でさえ、副作用があるのです。
恐ろしいことに、通常は許容濃度というものが定められていますが次亜塩素酸にはありません。結局、気化して塩素に変わるので塩素の許容濃度として考えることになるのでしょうか?
メーカーも塩素の許容濃度を引き合いに出して大丈夫だとしています。
ちなみに、塩素の気中許容濃度は0.5ppm、1.5mg/m3です。
このことに関しては、後述しますので、なんとなく覚えておいてください。
無機物の器具の消毒は拘りませんが、人体に入ってくるとなると話は別物です。
消毒剤は対象物に触れることで効果が発揮されます。環境表面や空間にむやみに噴霧するだけでは消毒剤の触れる箇所にムラができ、十分な効果は得られません。
事実、某有名メーカーが空間除菌のキャッチコピーで販売しているものも、部屋に置いたシャーレで菌が無くなったことで判断しています。
医療関係では、空間除菌は効力がないことは共通認識となっています。
ちなみに、どこの医院でも患者さん毎に、チェアーとかチェアー周りあるいは待合室やドアノブ等を消毒剤で湿式清掃をしています。
環境整備の基本は湿式清掃(拭き掃除)です。
そこで、空間除菌について推奨しない否定的な理由を列挙します。
理由1 殺菌メカニズムから人体には有害だから
空間除菌というキャッチコピーはすごく魅力的で引かれるもは無理もありません。空間がミスト化された次亜塩素酸水あるいは気化したかもしれない塩素によって除菌されたとすれば、その空間は細菌やウイルス等がいないので、ある意味、綺麗な空間になる訳です。
その同じ空間にいたらその空間の空気を否が応でも吸うことになります。
空間にエアロゾル化した次亜塩素酸水は、口あるいは鼻から人体の肺に侵入することになり、すなわち人間も除菌されることになります。メーカーは、次亜塩素酸水はすぐに水になるので大丈夫だと言っていますが果たしてそうでしょうか?
この体に侵入した次亜塩素酸水は、細菌やウイルスだけを強い酸化作用で殺菌して、口腔粘膜、咽頭あるいは肺胞の粘膜細胞のタンパク質は分解しないなどということが起きるのでしょうか?
ある訳がありません。
次亜塩素酸(HOCl)の殺菌力は次亜塩素酸イオン(OCl⁻)より約80倍高いといわれています。
当然、80倍もの強い殺菌力で粘膜細胞も痛めつけられことになるのです。
次亜塩素酸は強い酸化剤であり、有機物を酸化して分解する能力を持つ物質なので本来は危険なものです。
ちなみに消毒剤はほとんど人体に危険と考えた方が無難です。
次亜塩素酸は人間の白血球とは違い、異物を区別することができません。細菌やウイルスだけに特異的に作用することなどありません。
無機物に使用するには問題ありませんが、強い酸化作用による殺菌効果は人体に使用するのは問題があると考えるのが妥当だからです。
理由2 人体が長期間吸引した場合のエビデンスがない
もともと、この手の検証をするための実験は、人道的に問題がありすることはできません。とは言っても、みなさんが飲んでいる薬は治験というある意味人体実験をして、問題がない場合に限り厚生労働省が薬として認可して使用できるようになっています。
通常は、問題があると認可がおりません。
今回の新型コロナウイルスで脚光を浴びて新薬として認可されるかもしれないアビガンも、2014年に製造販売承認を取得した際、有効性を示す治験が限られ、催奇形性を持つ可能性が指摘されたことから、季節性インフルエンザを対象とした追加の臨床試験を行うこと、厚労相の要請がない限りは製造、販売を行わないことを条件とされていました。
要するにお蔵入りで、新型インフルエンザが発生した際の隠し球の薬として厚生労働省が備蓄していました。
ちなみに、治験とは新しい「薬」が国の承認を得るために安全性や有効性を確認するために行う臨床試験のことです。
新型コロナウイルスのワクチンもこの過程を必ず通過しなければ薬として認可されません。
しかしながら、塩素系その他の化学物質が空気中にミスト(霧)化されたもの、蒸散されたものを、日常的に、かつ長期的に肺へ吸い込み続けることの治験はありません。
すなわち危険性は、明らかになっていません。
まず、動物で試し、さらに人間で試し、OKならゴーサインが出るのが通常です。
次亜塩素酸水に関しては人間で試すというステップを行うことができません。理由は、雑貨に分類されているので厚生労働省管轄下ではないからです。
巷では安全なものとして病院とか公共の施設で使用されています。まさに人体実験を行っているかの如くです。
魔法の水なので魔法にかかってしまい、いきなり人間に使用されてしまっています。
誰が魔法をかけたのでしょうか?
魔法を解くために、ちょっとショッキングなお話をします。
実は、次亜塩素酸に対する気中許容濃度はありません。非常に不安定なためなんと有毒な塩素濃度で判断する様になっています。
ちなみに、塩素の気中許容濃度は、0.5ppm、1.5mg/m3と決められています。(このことは覚えておいてくださいと言った前述したことです。)
下記に塩素の濃度による中毒症状の関係を示します。
恐ろしいことに、塩素臭がしても許容濃度以上でも匂いに慣れ耐性ができてしまうのです。
このことは、大丈夫ということではありません。許容される範囲でタンパク質が塩素の作用によりダメージを受けています。
私たちが日常でイメージできる塩素の恩恵を受けているものとしてはいろいろありますが、プールの水や水道水に含まれている塩素でしょうか?
プールや水道水のあの独特な臭いカルキ臭としてほとんどの人が認識しています。
正確には、塩素が、原水に含まれているアンモニア性窒素と反応して「クロラミン」という物質が生まれます。この「クロラミン」が、カルキ臭の正体です。
塩素は、毒ガスとして第一次世界大戦においてドイツが使用したことでも有名で、塩素を含んだ水道水をシャワー等で使用すると、塩素は25℃で気化するので水道水を飲んだ場合の6〜100倍危険と言われ、このことを認知して水道水に含まれている残留塩素を気にする人は、水道の元栓に浄水器を設置したり、シャワーのヘッドを脱塩素のものに交換する方もいるくらいです。
もっとわかりやすい例としては、水道水に魚を入れると死んでしまいます。これは水道水に含まれる塩素の毒性のためです。そのため使用するには水道水から塩素を取り除いて使用しています。
このことを知っている人は、浄水器を用いて水道水の塩素等を取り除いて飲用しています。
水道水に含まれる 0.1ppm〜1ppmの残留塩素でさえも問題があるのです。さらに濃度が高い不安定な次亜塩素酸が含まれている次亜塩素酸水を噴霧するなど想像するだけでゾッとします。
理由3 厚生労働省は効果が不確実と言っている
厚生労働省もこのことに関しては、「次亜塩素酸を含む消毒薬の噴霧については、吸引すると有害であり、効果が不確実であることから行わないこと」としています。5)
厚生労働省が不確実と言っているので大丈夫と言うエビデンスがないと考えるのが妥当かもしれません。
理由4 次亜塩素酸水以外に次亜塩素酸ナトリウム等も噴霧しているかもしれないから?
空間除菌を謳っている製品のほとんどが食塩と水を電気分解によって次亜塩素酸水を生成してある濃度で噴霧しています。
一槽式の装置で食塩と水の電気分解を行うと、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムのpH9ぐらいの混合液になります。
何か他に酸を加えるか、塩化カリウムまたは塩酸と水の混合液を電気分解で行わないと次亜塩素酸ナトリウムが生成されてしまいます。
一度pHを計測してみることをお勧めします。もしpHが7.5以上の場合は、問題ありです。
いうまでもありませんが、次亜塩素酸ナトリウムの割合が多くなりアルカリ性に傾いています。当然、次亜塩素酸の割合は少なく次亜塩素酸ナトリウムの割合が多いものを噴霧していることになるからです。
危険な次亜塩素酸ナトリウムを噴霧していることになるからです。
ちなみに、巷で販売されている次亜塩素酸水生成器はほとんど次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムのpHが9ぐらいの次亜塩素酸ナトリウムの含有量が多いものです。
健康被害の可能性がありますのであまりお勧めできません。
某メーカーのものは、「次亜塩素酸、空間除菌脱臭器」とネーミングされています。
微妙ですねぇ。
理由5 ただの水を噴霧しているかもしれないから
次亜塩素酸水は厚生労働省が定めるように、電気分解によって生成されたものをすぐにジャブジャブ水道水の様に使用して初めて効果が得られるものです。11)12)
適切な使用をすれば、素晴らしい効果が得られるものです。
配布されたものあるいはボトル等で購入して薄めて使用するものはちょっと微妙です。
何度も言いますが、生成された次亜塩素酸水は不安定なため、紫外線や熱によりすぐに変化して殺菌効果がないただの水に変化している可能性があります。
もし殺菌効果のないものを使用していたとしたら、とんでもないことです。
使用に際しては、本当に有効なのか試験紙等で確かめる必要があります。
理由6 COPDが懸念される
人体を対象に消毒剤を長い間吸引した場合を観察したエビデンスは、いくつかあります。エビデンスを見る限り、長期間だとCOPD*(慢性閉塞性肺疾患)を起こすとしているものと問題ないとしているものが見受けられます。9)10)またこれに関する統一の見解はありません。
当然ですが、次亜塩素酸水を長い間吸引した場合のエビデンスはありません。
当院としては、疑わしきは導入せずをモットーとしています。
*:COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)息をするときに空気の通り道となる気管支や肺に障害が起きて、呼吸がしにくくなる肺の「生活習慣病」で、喫煙と深い関わりがあります。以前は「肺気腫」と「慢性気管支炎」に分けられていた病気を、まとめてCOPDと呼ぶようになりました。
理由7 密閉空間にしないと効果がないから
空間除菌をするとしたら、部屋を密閉しないと効果がありません。密閉した場合は、前述した様に次亜塩素酸水の気化した塩素を吸引する可能性があり、厚生労働省が禁忌としている3密の密閉空間になってしまいます。
今は換気がスタンダードになっています。
まとめ
次亜塩素酸水は無機質に使用する
人体に次亜塩素酸水は微妙
使用する場合は有効塩素濃度やpHの計測必要
誰でも使える安全なものではない
患者さんにはエビデンスのある物を提供するべき
空間除菌は、非常に魅力的なキャッチコピーですが、従来からの空気清浄機を使用する方が人体には安全の様に思われます。
あえて、エビデンスが不確かでしかも高額な次亜塩素酸水を用いた空間除菌脱臭器を使用する必要性はない様に思われます。
次亜塩素酸水は、適切な使い方をすれば非常に有効なものです。
管理あるいは使用方法が不適切な場合は、適切な効果が得ることができない取り扱いが難しい「魔法の水」です。
ご使用になる場合は、「魔法の水」だけに呪文等取り扱いを熟知する必要があります。🤗
呪文をマスターすれば「魔法の水」だけに効果は絶大ですが、人体内に使用するのは微妙です。
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参考文献
2)インフルエンザウイルスを用いた代替消毒剤候補物質の有効性評価にかかわる検証試験の結果について
4)次亜塩素酸ナトリウムに酸を混和して使用することについて(厚生労働省 食安基発第0825001号 平成16年8月25日)
5)事 務 連 絡 令和2年3月6日 社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点
8)山本恭子, 桐村智子, and 鵜飼和浩. “強酸性電解水手洗いにおける皮膚への影響と除菌効果.” 環境感染 15.3 (2000): 213-219.
11) 新型コロナウイルスに対する次亜塩素酸水の不活化効果を証明
12)新型コロナウイルスに対する次亜塩素酸水の不活化効果を証明 第 2 報
追記(5月31日追加編集)
「次亜塩素酸水」の新型コロナウイルスへの有効性の疑問
経済産業省は、下記の2項目についてファクトシートを発表